大学が試験問題を通じて測りたい受験生の能力 - 藤原幸一

2011年03月03日 22:29

京大の試験漏洩問題を機に大学受験制度について議論が起きている。カンニング等どのような手段を用いても問題の解答が見つかるのであれば、それでよいではないかという議論もあるようだ。僕はそのような論調に異を唱えたい。重要なことは、入試問題を通じて、大学側が受験生に求める能力、素質を明確にすることである。


そもそも、僕は今回カンニングの対象となった数学の難易度に関心があった。入試制度はどんどん多様化し学生に求める資質を不明瞭しているのに対して、問題の難易度こそが大学側が受験生に求める能力を端的に表現しているからだ。

かねてより京大数学の難易度の高さは有名である。過去問には問題の意味の把握さえ困難なものも多い。その京大数学も年々易化しているとは聞いていたが、今回報道で京大の数学の問題が取り上げられ改めて問題を見てみて、あまりにも簡単なことに驚いた。カンニング対象の問題は、文系向けとはいえ教科書レベル程度である。しかし、かつての京大数学のように、ほとんどの受験生が完答できない問題を出題することに意味があるのか?

僕は以前、京大が異常に難しい数学を出題するのは、とにかく数学ができる学生がほしいからだということを聞いたことがある。では、何故京大が数学のできる学生を求めるのだろうか。

センタ試験のように、公式を適用するだけの簡単な問題であると、測れるのはほぼ知識だけになってしまう。このような問題は既に解かれている問題であるため、確かに持ち込みでもカンニングでも、効率的に解ければそれでよい。この場合は、問題解決能力とは情報収集能力ということになる。しかし、情報を適切に収集さえできればよいというものではない。たとえば私は工学系の研究者であるが、研究でも書籍やインターネット上の様々なリソースを用いて調査を行う。しかし、研究はまだ誰も答えを知らない問題を解くために、試行錯誤するものである。調査を行えばヒントは見つかるかもしれない。しかし、そこには答えはない。調査結果は参考にはするが、最終的には自分の勘やひらめきが問題解決に求められるのであって、さらに自分のひらめきをサポートするためのロジックの構築、実験による実証、最終的には他人への説明が必要となる。これこそが真の問題解決能力である。

数学は、問題解決へのひらめき、それをサポートするロジック、そしてロジックを説明する文章力をトータルに測るのに最適な科目である。詰め込みの知識を重視しないのであれば、確かに教科書の持ち込みぐらいは許可しても良いのかもしれないが、真の問題解決能力を適切に測るには、ひらめきを要する難度の高い問題でなければならないのだ。

このように、京大が数学のできる学生を求めるのは、その高度な問題解決能力に期待しているからであり、数学に関して言えば京大の課している現在の入試方式は不合理とはいえない。また、しばしば入試業務の教員負担が取り上げられるが、学生に高度な問題可決能力を期待する以上は、教員側の相応の負担も致し方ないことであると思われる。

今回の事件のように携帯電話を用いたカンニングという「解法」は、ひらめきでもなんでもない。簡単に足が付いたようにやり方は杜撰であったし、携帯電話を使ったカンニングは過去に韓国でもあったというから、結局、解法も二番煎じに過ぎない。今回の解法は新しくなければ効果的でもなく、まったく評価できない。

とにかく、それぞれの大学が受験生にどのような能力を求めているのか明確とし、それに従った問題を作成すべきである。そのためには、問題の難易度以外の指標があってもよい。そして受験生は、大学の求める能力が何であるかを受験問題から読み取って、その能力を伸ばすべく努力すればよいのである。受験生にとっては、多様化する受験スタイルに適応していろいろな勉強をするよりも効率的であるし、大学側も入学後の講義ともリンクさせやすくなる。

以下は蛇足であるが、本来、求められるべき能力は問題解決力だけではない。「ハーバードの学生がやるべきなのは他人に雇ってもらうことではなく、仕事を創造することだ」これは映画『ソーシャル・ネットワーク』 でのハーバード大学の学長の台詞であるが、仕事を創造するとは、新たな問題を見つけることだ。誰もが疑問を抱かないことに、疑問を抱くことなのである。研究でもビジネスでも、このような問題発見能力が最も重要であるとされる。たとえば、研究では問題設定の方が、問題解決そのものよりも遙かに難しく、適切に問題を設定できれば研究の大半は終わっているといってもよい。しかし、問題発見能力を測ることは、問題解決能力を測ることよりも遙かに困難であり、そもそも日本の教育では問題発見についての教育がなされることはない。そのため、次善の策として京大でも入試では問題解決能力を問うているのであろう。
(藤原幸一 NTTコミュニケーション科学基礎研究所研究員)

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