カンニングは犯罪か

池田 信夫

ネット上では、大学入試のカンニング事件について延々と論争が続いています。町村泰貴氏

カンニングでばれて受験資格を失ったり、学内定期試験でも落第したり停学になったりしている例は、数知れず存在する。そういう例に比して、今回の事例が取り立てて悪質だというものでもない。

として、警察が逮捕したのは行き過ぎだとの立場です。これに対して玉井克哉氏

カンニング受験生について「逮捕するのは行き過ぎ」という議論、常軌を逸していると私は思う。犯罪が発覚した。逃亡や証拠隠滅の恐れがある。逮捕されるのは当然でしょう。日本は法治国なんだから。


という意見です。茂木健一郎氏

報道された複数の大学を共通して受験している学生を、大学間で情報を共有して割り出せば、少数の候補を特定できたはずである。さらに、インターネット上で寄せられた回答と入試の答案を比較すれば、その類似性からかなりの確率で受験生を特定できたものと推定される。最終的には、大学側が学生から事情を聞いて、事件を処理することは可能だったし、またそうすべきだったと考える。

と述べ、これは私のブログ(追記)と同じです。私は、当然のことながら茂木氏と同じ意見です。京大以外の大学については、すでに合格発表も終わっており、警察に捜査させる緊急性がない。京大についても合格発表は3月10日なので、それまでに受験生を割り出すことはそうむずかしくない。手口は非常に単純だからです。

もちろん警察が強制捜査を行えば迅速に解決でき、証拠隠滅なども防げるというメリットはありますが、他方でカンニングで逮捕するという前例のない厳罰を課すことになります。玉井氏のように、これを犯罪と考えれば逮捕は当然ですが、少なくとも刑法ではカンニングを犯罪と規定していない。「偽計業務妨害」というのはかなり苦しい罪名で、普通のカンニングにも今後は刑事罰を課すのか、などむずかしい問題が残ります。

大学が異例に早く被害届を出したのは、手口が物珍しくてマスコミが騒いだから「厳正に処分する」という姿勢を見せなければならない、という政治的配慮が作用した印象が強い。教育的配慮という点では、疑問の残る決定です。この事件についてのみなさんの意見をお寄せください。投稿規定はこちら

コメント

  1. hogeihantai より:

    警察に捜査を依頼する前に大学はカンニングした受験生に名乗りださせる機会を与えるべきだった。殺人や窃盗などの重罪ならともかく、自分のところの学生も学内の試験などで少なからずやってるに違いないカンニング程度で、人を教育する大学が直ちに刑事事件とするのはおかしい。

    こんな事件よりも2007年に慶応法科大学院の教授が司法試験の直前自分の教え子達に試験問題をメールで配信した事件の方がはるかに悪質だ。この時は問題を漏らした教授は何の処分も受けていない。巨悪を逃し未成年の小悪を弾劾する態度は許せない。

  2. cuique4 より:

    刑法規範の第一次的名宛人を誰とみるかの考え方の違いでしょう.
    共同体の習俗を規律しこれを維持するためと考えるならば,それは国民が第一次的名宛人となるだろうし,
    国民の行動の一般的自由を確保する為に刑法規範があると考えるならば,国が第一次的な名宛人となる.
    今回の逮捕は,司法も国家は暴力装置ではないと考えていることの帰結でしょうね.

  3. yamaguchiiwao より:

    玉井氏の指摘は、カンニングが犯罪か否かではなく、今回の許容されていない、携帯電話を使ったヤフー知恵袋への問いが、結果京大の入試業務に過大な負荷を与える事になり、これが偽計業務妨害に当ると言うものだと理解しています。茂木氏、池田先生の提案はありと思います。問題は相当業務負荷がかかりそうで、これは結局コストとなり税金の投入となります。なので、納税者としては出来れば勘弁してほしいと言った所です。金額次第ですが。。。それにしても、何となく一罰百戒の匂いがして、これが少し気に成ります。後、学生のプライバシーは徹底的に保護されるべきです。
    山口 巌

  4. hogeihantai より:

    カンニングと似たようなものだが学生のレポートや学位論文ではインターネットの記事をコピペする事がごく普通に行われている。米国ではこの種の文章は学生にPCから提出することを義務付けておりコピペがあるかどうかチェックするソフトが10年以上前から導入されており違反が判明すると厳しいペナルティを課せられる。日本では全く野放しにされている。学生どころか大学教員のPlagiarismも日本では充分チェックされていないようだ。

    名門大学でも池田さんおっしゃるところの「オカルト経済学」を学生に平気で披露する教授がいる。こういう日本の大学のお寒い現状をみると入学試験でカンニングした受験生をさらし者にすることに大いに違和感を感じてならない。

  5. armedlovepower より:

    カンニングで解決できるような問題を、最高学府で問うことが、根本の問題です。

    だから、最高学府をからやってきた人に、日本の課題は解決できないし(=日本政府)、あなたの会社に来たその子たちは、あなたの会社や組織の苦境を少しでも改善しましたか?

    カンニングに対する罰則を考えることは時間の無駄です。そんなマヌケなことを国家単位でやっているのは、このアジア圏だけです。

  6. jerusalem2000 より:

    「カンニングは犯罪」とすれば、日本中の数十万人の大学生が、犯罪者になってしまうだろう。今回のように、全て逮捕していたら、警察も忙しくなる。それでいいのか?

    あるいは、今回の件は、カンニングとしてではなく、
    「試験時間中に、試験問題をwebに流出させて、大学の業務を著しく混乱させ、妨害した」
    として、偽計業務妨害を適用するのならまだ分かるが・・・。

    しかし、予備校生が「京大の入試問題です」としてwebに投稿したわけではないため、混乱させる意図もなかっただろう。大学側が勝手に混乱し、騒いで、カンニング学生を特定するために被害届を出しただけだとしたら、話は違ってきて、「カンニングは犯罪」ということになってしまう・・・。

  7. i8051 より:

    (1)高3は教育的配慮が必要な年齢か (2)大学は教育的配慮という名の温情を施すべきか (3)aicezukiの行為を偽計業務妨害罪とみなすのは無理筋か // 人により意見が分かれそうです。ちなみに私の意見は全てNOです。aicezukiの行為は、本人の意図はともかく、その帰結において通常のカンニングとは区別されるべきだと思います。

  8. rabbitge より:

    今回のカンニングは刑事罰が妥当かどうかというより何か大学の妙なプライドをマスコミがおもしろおかしく取り上げ、そのつるし上げに学生があったのように感じます。

    大学としてはプライドを傷つけられ怒り、マスコミは報道することがないので、とりあえず利害関係もない弱いものいじめで学生をたたき、世間は他のことでストレスがあるので、ちょうどいい生け贄を叩くマスコミをおもしろおかしく見る。

    結局この問題、解決する、再発防止するという方向性よりも、個人攻撃をすることが主になっていませんか。こうして皆萎縮して経済が停滞していくのでしょうか。

  9. worldcomw より:

    茂木・池田案が普通の対応でしょう。大学側も、検討くらいはしたのではないでしょうか。
    それが出来なかった理由は、

    ・期限までに確実に結果を出すコーディネート能力が不足している。
    ・失敗した場合、責任を取れる人物がいない。

    3年くらいの猶予があれば、じっくり検討して結果が出せたと思いますよ。

  10. yutoa より:

    逮捕はカンニングによって受けた業務妨害の疑いであって、カンニングそのものではないじゃありませんでしたっけ?そもそも最初のニュースでは文部科学省が学校側に調査対応せよと命令したはずで、学校側が自発的に対応したわけではないという印象。

    「カンニングが犯罪になってしまう」という意見には、別に刑法で定められてないなら、今後の改正されないかぎりはこの先も犯罪にならないでしょ?この先も学校の対応だけになるに決まっているじゃん。
    いちいち期末試験ごとに警察が学生逮捕するわけないし。

    意外とカンニングを助長や問題なしとする風潮が多いことに違和感を感じる。

    自分で考えることなしに、答を書き写すことが不正でないなら、拡大解釈として、インターネットの引用をそのまま課題として提出するのも問題ないことになる。

    「不正行為はいけない」という子供に対しての大義名分を、なし崩しにするようなカンニング擁護の公に発言する大人は社会人としてズレている。

    真面目にやってきた受験生が代わりに落とされてもいいと言ってることに気づかないのかな。

  11. bobbob1978 より:

    今回のカンニング事件がこれだけ盛り上がったのは、「多数の有名大学の入試問題をヤフー知恵袋で公開質問する」という手法が、受験制度に不満を持つ人たちによる受験制度への反抗を連想させたからだと思います。
    普通に考えれば、受かりたくてカンニングをするならヤフー知恵袋なんかで質問しません。私も、事件の詳細が明らかになるまでは、この件の犯人はカンニングそのものが目的ではなく、受験制度を揶揄するのが目的の愉快犯や確信犯の類だと思っていました。大学側の対応が大げさになったのも、今回の件が複数犯による受験制度へのテロ攻撃の一種だと考えたからではないでしょうか?

    しかし、終わって見れば「泰山鳴動して鼠一匹」です。まさか本当にカンニング目的だったとは・・・。

  12. haha8ha より:

     「試験中に携帯を使うな」といってあったはずですから、契約違反なのは間違いない。大学側が民事で損害賠償請求するのはありかも。
     実際、検察が起訴までするかは分かりませんが、まあ、家庭裁判所で裁判してみてもいいんじゃないですか、初犯だし、少年院に収監しないでしょう。来年もがんばって受験すればいいだけです。
     いっそうのこと、小数限定で「入学権利」のオークションもありでないかとも思います。裏口入学やカンニングなど卑屈にならず堂々と入学できます。

  13. 未来 より:

    カンニングぐらいって言う人がいるのが私には信じられない。
    そう言う方は、やっぱりお前もやっているんだろうって思ってしまう。
    日本人の美学じゃないな。
    昨年の国家機密をYouTubeに流した馬鹿が逮捕されなかったのに日本のモラルの低下を感じたが、今回の逮捕は良かったね。

  14. iseeker より:

    これが誰でもはいれる三流大学だったら笑い話で終わったんでしょうが、天下の京大が舞台になったとなると笑い話では済まなかったんでしょう。京大にはいることができれば、就職をはじめ、その後の人生で大きなメリットが得られます。それがあるから、多くの受験生が必死で勉強をするわけです。

    一流大学の入試問題は、金銭を伴う漏えい問題が起こるほど価値のあるものです。それが入試が終わる前に漏れてしまったとなれば、入試システムの信頼にかかわる大問題となるでしょう。それだけに大学側が迅速な対応を取ったというのは妥当だと思います。

    手段として警察を介入させることには議論の余地があるかもしれませんが、通信ログを開示させる権限が大学側にないという現実を考えれば、今回の対応は仕方なかったと言えるかと思います。大学間で情報を共有すれば対象者を割り出せるとの考えもありますが、組織的に犯行が行われていた場合、全貌は明らかにならないでしょう。

    これらを考え合わせると、今回の大学の対応は妥当の範疇にはいると思います。問題があるとすれば、この事件を過度に報道したマスコミにあると思います。この件に関して、求められてもいないのにコメントを挙げて、話題が広がることを助けた有名人も同様でしょう。

  15. ksmo2011 より:

    カンニングの善悪を問う等ナンセンス。そんなモノ、悪いに決まっているし、合格取り消しでお終いの話。
     この事件が、目立つのは、入試問題が同時進行形でネット上に現れたという前代未聞にある。だがそれとて、当事者にしてみれば、消しゴムに仕込もうが、袖口に紙切れを忍ばせようが同じ事。単に、方法の一つとしてあったというにすぎない。
     それを恰も大問題とした使われてしまったのは、無知な大人達が、すわ組織犯罪と、思い込んで大騒ぎをしてしまったこと。それにしても、むしろその騒ぎの大きさに、一体メディアは何を考えてこんな大騒ぎをしているのかと不思議な気がしていたのは私だけではあるまい。
     それと如何にも腹立たしいのは、総長が会見で、受験管理に絶対に落ち度はないと怒りをぶちまけていた不見識。保身。或いは教育者としての器の小さきや浅慮。
     調査が進めば何れ明らかになろうが、ろくな巡視もせず慣れと惰性で厳格な管理体制がなかったことは猛省を促されるべきこと。出し抜かれて恥じ入るのは大学側であるべき。
     それを居直って、ミスも責任もなかったなどと怒りをぶちまけて業務妨害とは聞いて呆れる。
     倫理に於いて、節操に於いて、品格に於いて負けたのは見事に大学側。

  16. worldcomw より:

    > 14. iseekerさん
    ログなんて不要ですよ。
    容疑者を絞り込んだら連絡して問いただして、認めたらその場でログインさせればいいだけです。
    アカウントを消して携帯のメモリチップも破壊して裏が取れない、本人が捉まらないという場合のみ、
    キャリアに問い合わせる必要があります。
    そこでレスポンスが遅かったり開示拒否されたりした場合に、警察に頼るべきでした。

    バカらしくて報道を読んでいないのですが、これくらいのことを行ったうえでの捜査依頼・・・
    だったら大学を見直しますが、そんなことも無さそうですし。

  17. koukiinui より:

     海外では刑務所内の受刑者が外部と接触するために携帯電話を密かに持ち込むことが問題になっているようです。http://wiredvision.jp/news/200904/2009042821.htmlをご参照ください。米国やイスラエルの企業が、特定の地域内での携帯電話の使用を検知する機器を販売しているようですね。
     いずれにせよ、今の受験のようなペーパーテストでは、同じようなことが今後再発するかもしれませんし、今回判明したのは氷山の一角なのかもしれません。韓国でも同じような事件があったように思います。
     一つ確実なのは、大学が情報技術の進歩に合わせて試験の運用体制等を見直していない事です。受験料の収入は、大学にとっても非常に大きな割合を占めると思いますが、事業のリスクに対する感覚の鈍さは、日本の企業と相通ずるところがあります。

  18. mafarava より:

     今回のカンニングでは、そもそも偽計業務妨害にはならない。 なぜなら、この時代にITを使ってカンニングを行う事など“当たり前”の事だからだ。
     大学側が試験を監督し、不正を予防するのは当然の業務であり、だからこそ受験場所を集約し、会場に監督官を配置し監視する。
     ITをカンニングに利用されることも当然予想した事前事後の対策は当然であり、今回のカンニングが「特別に業務を妨害した」ことにはならないはずだからだ。

  19. yutoa より:

    ITをカンニングに利用するのは当然、監督の対策が必要とコメントにあるが、その対策の費用や人員は、誰がどの費用で行い、時間を割いて、検証して、告知して実行するの?

    国立大学ですら、国からの予算がなくなるのではないかという流れの中で(昨日参加した講演で某国立大学の総長は、完全にその対策「・・打ち切られた際の人件費の試算を行っている・・・」とおしゃってました)こんな対策に、人手をさく暇はないと思います。

    受験生なので、今後もその多くが未成年です。影響も考慮し、やって当然という論調は自粛すべきです。

  20. taijin55jp より:

    偽計業務妨害が適用されたこと自体が不思議といっても良いと思う。

    そもそも、入学試験自体それぞれの大学が独自で行うということが前提のはずであるから、当然、カンニングに対する可能性に関しても、自己の努力により想定と予防をすべきであるはず、有名大学になればなるほど、公平性をもって、ブランドを守るべく義務でもあるとも思う。

    警察に届けたことも、自らの不甲斐なさをさらけ出してしまったし、警察も門前払いでも良かったのでは・・・・?

    京大というメジャー大学だったから、事件にしたというのが本来の姿では、これが地方の短大の入試だったら、ここまで大事になっていたかどうか・・・?

    当然なっていないであろう。

  21. forcasa3 より:

    カンニングなんてこれまでも一定の割合でありましたし、今後も決して無くなりはしないでしょう。日常技術の進歩に伴いカンニング手法が変わるのは当然です。そして技術の進歩は誰にも止められません。今回の騒動については、カンニング自体よりも、世の中の進歩に全くついていけていない旧態依然の大学に子供達を押し込む事の方がより犯罪に近い気がしました。

    yutoaさん
    > その対策の費用や人員は、誰がどの費用で行い、時間を割いて、検証して、告知して実行するの?
    「限られた予算内で最大限費用対効果を考えた対策を採る」としか言いようがないですね。或いは効果的な対策が思い浮かばないようなら、いっそ受験制度自体を見直すとか。アゴラでは、全入時代下での大学の存在意義自体が問われているくらいですので、既存制度を前提とした議論は余り意味がありませんよ?