カンニング受験生の逮捕は「行き過ぎ」という議論は「常軌を逸している」という意見は、常軌を逸している - 杉井 英昭

2011年03月08日 11:29

今回の逮捕が「行き過ぎである」という意見に対して、知的財産法学者の玉井克哉氏は、「常軌を逸している」と評しています

その理由として、「日本は法治国である」「犯罪が発覚し」「被疑者に逃亡・罪証隠滅のおそれがある」ことを挙げています。


まず、玉井氏が挙げた上記の点について、解説のようなものをしてみようと思います。純粋な法律論というのは、無味乾燥でつまらないものと思われる方も多いでしょうが、お付き合い下さい。

法律上、(通常)逮捕はいかなる場合に許される(=適法)のでしょうか。

これは、刑事訴訟法に規定があり、第1に「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること」、第2に「『明らかに逮捕の必要がないと認めるとき』ではないこと」です。1つ目を「逮捕の理由」、2つ目を「逮捕の必要」と呼びます。そして、「明らかに逮捕の必要がない」場合については、刑事訴訟規則によると、「被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等」という例示があります。

警察官等は、「逮捕の理由」があると考えれば、裁判官に逮捕状の発付を請求し、裁判官は、逮捕の要件を満たせば、逮捕状を発付します。そして、警察官はその逮捕状に基づいて、被疑者を逮捕することが、法律上許されているのです。

そこで、今回の事件をこれらの要件に照らしてみましょう。

まず、「逮捕の必要」について、特に罪証隠滅の虞は肯定しやすいでしょう。実際、新聞記事等によると、警察官は当初、任意での事情聴取を行うつもりであったところ、罪証隠滅の虞があると判断して逮捕に切替えたようです。ここでの罪証隠滅としては、特に被疑者の自殺が挙げられるでしょう。警察もこれを最も懸念したのではないでしょうか。

次に、「逮捕の理由」を見てみましょう。

「罪を~相当な理由」における「罪」とは、「犯罪」、すなわち「刑罰の課せられる行為」のことです。本件では、偽計業務妨害罪(刑法233条)がこれに該当します。

ここで読者の中には、「カンニングが偽計業務妨害罪に該当するか?」と首を傾げる人もおられるでしょう。確かに、今回の試験関連業務の妨害(以下「本件行為」と言います。)が刑法233条に該当するか、というのは一つの争点となりうるでしょう。

だからといって、このことは、直ちに逮捕の違法性を導きません。

刑法233条には、「偽計を用いて、人の・・・業務を妨害した」場合に犯罪が成立すると規定されています。

この法文からは、本件行為の同条該当性は、必ずしも明瞭ではありません。

しかし、この争点は、被疑者が起訴されたときに、公判で弁護人が主張して争えばよいことです。もし同条に該当しないのであれば、裁判所は「無罪」の結論を出すでしょう。

また、それ以前に、検察官が同罪に該当しないと考えれば、不起訴処分にするかもしれません。

つまり、警察官が被疑者を逮捕する段階では、未だ本件妨害行為の刑法233条該当性は判断しなくてよいのです(むしろ判断すべきではない)。
したがって、大学から被害届が出ており、業務妨害の可能性がないとは言えない以上、警察としては「逮捕の理由」を満たしていると判断することが通常なのです。さらに、裁判官は前記逮捕の要件を満たしていると考えて、実際に逮捕状を発付しているのです。

以上より、本件の逮捕は適法と言うことができます。

玉井氏が「法治国」「犯罪が発覚」「逃亡・罪証隠滅のおそれ」を理由として、今回の逮捕が「行き過ぎ」ではないと断じたのは、以上の理由によるものでしょう。

さて、それにも関わらず、玉井氏の意見は誤りだと考えるのは、「違法」であることと「行き過ぎ」であることは、別物だからです。

今回の逮捕が「行き過ぎ」であるというのは、全くもって感情的な問題です。法律論ではありません。

玉井氏は「犯罪かどうかを世論によって左右するのはおかしい」と述べていますが、これは当たり前のことです。しかし、そもそも、「行き過ぎ」論者は、今回のカンニング行為は「犯罪ではない」と主張しているのではないのです(そういう主張の人もいるかもしれませんが)。仮に犯罪であっても逮捕は不当であると主張しているのです。さらに言えば、逮捕が適法であってもやはり不当である、と主張しているのです。これは感情の問題です。しかし、「感情論」として切り捨てるべき問題ではありません。たとえ適法な逮捕であったとしても、感情的に不当であると感じられる逮捕は、やはり倫理的な行為規範に照らせば「すべきでない」ということになろうと思われます。

したがって、本件の逮捕はやはり「行き過ぎ」であるという意見は一般的な倫理観念に基づくものとして傾聴すべきものであって、法律論にのみ基づいて「常軌を逸している」と評すべきではないのです。

と、まだ書こうと思っていたことはあるのですが、ここで字数が尽きたので、とりあえず終了させていただきます。

(杉井 英昭 法科大学院生)

■本記事の続き(3月9日掲載)はこちら

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