地震対応に見る政府のリーダーシップと問題解決手法 - 中津宏之

2011年03月28日 11:31

地震後の政府の対応については、海外から様々な非難を浴びている。リーダーに必要な3つの資質は、「意思決定」「行動力」「コミュニケーション力」だとされているが、海外からの非難は、このうち「意思決定」の遅さという点で共通している。「今何をしなければならないか」の判断(WHATの構築)こそリーダーシップの最も重要な部分にもかかわらず、なぜ政府は決断できないのだろうか。また、政府の問題解決手法そのものに改善すべき点はないのだろうか。


通常、問題解決においては、まず取組むべき問題の絞り込みと優先順位の判断を行う。たとえば、今回の災害で発生した問題を「国民の命に関わるもの」と「国民の生活に関わるもの」という枠で分類してみると、「国民の命に関わるもの」の優先順位が高いことは明白であるが、その中でもとくに「福島の原発問題」がトッププライオリティとなる。放射性物質により国民の「生命」が危険にさらされるだけでなく、被曝の危険性から避難所や病院への物資や薬剤等の流通が滞ってしまうことで、さらに「生命」が失われ、被害がますます拡大する可能性がある問題だからである。

そもそも、災害に対処する場合には、災害による直接的な被害をいち早く確定させる必要がある。これにより、被害からどう立ち直るかに視点を移すことができるからである。被害を確定させるには、被害が拡大する恐れのある要因をいかに早く取り除けるかを考えるのがセオリーであり、この点からも「原発への対応」がトッププライオリティになる。米国が早い段階で廃炉を前提に支援を提案してきたのはこうした点を踏まえてのことだと思われる。

しかし、現実には、地震から2週間経った今でも予断を許さない状況であり、依然として原発から放射性物質が漏れっ放しで、この先どこまで拡大していくのかさえ予測不能の状態である。問題解決においては、事態をいかにコントロールできるかが重要であるにもかかわらず、一部の英雄にすべての望みを託し、その結果は「神のみぞ知る」という状態にしてしまっているのである。英雄とそのご家族には最大級の賛辞を送りたいが、そもそも問題解決のセオリーに則った対処ができていれば、命の危険にさらす人を出す必要はないはずなのである。

被害が確定できないから、「被害の全体像」を把握できず、被害の全体像が把握できないから、復興の見通しが立てられず、復興の見通しが立てられないからリーダーが国民にビジョンを示せず、対症療法的な行動しかとれない、という悪循環に陥っている。

取組むべき問題の優先順位が判断できないということは、同水準で考えるべきではない問題を同水準で考えてしまうということである。これによって何が問題になるのかというと、1つの問題の解決策を打ち出しても、それが他の問題に悪影響を与えてしまう場合、その解決策は妥当でないとみなされてしまうことになる点にある。そして、すべての問題をうまく解決できるような解決策を打ち出そうとして、いつまでも決断ができないという事態を引き起こすのである。

今回の例で言えば、原子炉を廃炉とすることを検討するにあたり、「今後の電力供給をどうするか?」、「巨額の投資をした東京電力への配慮は?」などの問題も同時に考慮したのだろう。「こちらを立てればあちらが立たず」となって、「決断先送り」になってしまったのかもしれない。

しかし、すべての問題を同時に解決できる魔法のような解決策などあるわけがない。発生する電力供給不足にどう対処するかについては、最悪のシナリオを回避し、被害を確定した次のステップで腰を据えて取組むべきテーマであって、放射性物質の漏れを止めることと同時に解決できるような問題ではない。ましてや東京電力への配慮など、国家の危機において1企業の利益を尊重している場合ではない。

「役割の認識」ができていないことも問題の解決を混乱させる。原発への海水注入を例にとると、放水のタイミングについて東京電力と政府の意見が割れていたが、「原子炉そのものの問題解決」にフォーカスする東京電力の見解と、「国民の安全」「国民の生活」について大局的な視点で意思決定を行うべき政府とでは、意見が違って当然なのである。東京電力という1企業にとっては、あくまで自社の利益という概念が付いて回る。当然ながら、巨額の投資をした原子炉を廃炉にすることは避けたいため「様子をみるべき」と言う主張になる。

しかし、国民の安全を預かる政府が、責任や視点のレベルが違う者の判断をそのまま受け入れてはいけない。リスクがあると判断した時点で、何らかの決断をしなければならない。政府の役割は給水のタイミングを見極めることでも1企業の利害に配慮することでもなく、国民の安全を守ることであり、被害を最小限に食い止めることだからである。これができて初めて次のステップである「国民の生活」の回復に国力を集中させることができるのである。

「日本国民は辛抱強いが、合理的な問題解決の方法を知らない」という国際的な評価にならないように少なくとも日本のトップには世界では当たり前の問題解決スキルを身につけてもらいたい。

中津宏之 会社員 コンサルタント

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