3.11変わる世界、変わらぬ日本

山口 巌

福島原発事故は世界に大きな衝撃をもって受け止められた。取分け環境意識の高いドイツでは反原発運動が巨大なうねりとなり全国に波及している。

そして今朝、新たに大きなニュースが飛び込んで来た。

[シュツットガルト(ドイツ) 27日 ロイター] 27日の独バーデン・ビュルテンベルク州議会選挙で、メルケル首相が率いる与党連合が敗北する公算が強まった。福島原発の事故を受け反原発を掲げる緑の党が大幅に票を伸ばし、初めて州首相を輩出する見込み。
 緑の党と社会民主党(SPD)の合計得票率は47.3%に達する見込みで、同州で約60年にわたり政権を担ってきたメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)は敗北を喫することとなる。

 1800GMT(日本時間28日午前3時)時点の予測では、CDUと自由民主党(FDP)の与党連合の合計得票率は44.3%となる見込み。

 敗北した州首相のStefan Mappus氏(CDU)は「過去2週間、日本から伝えられる恐ろしい映像と出来事が主題となった。その他に選挙戦の論点はなく、中央政府からの動きもわれわれにとって逆風だった」と述べた。

バーデン・ビュルテンベルク州はドイツの南西部に位置し、人口が1,000万人を超える、大きく豊かで、緑に恵まれた州である。州都、シュツッツガルトにはメルセデスベンツの本社があり、日本人にはメルセデスベンツの本社と工場がある州と言った方が判り易いかも知れない。

ドイツ南部は政治的には非常に保守的であり、隣接するバイエルン州と共にバーデン・ビュルテンベルク州は戦後一貫して政権与党、キリスト教民主同盟(CDU)の金城湯池であった。

ドイツを知る人間で、この潮流がバーデン・ビュルテンベルク州で終了すると考えるものは皆無であろう。ドイツ全土に飛び火し現政権の屋台骨を揺るがし、結果、緑の党と社会民主党(SPD)の連立野党に政権が移行するのではないか?

ドイツは永らく続いた中道右派の政権から、中道左派政権に移行する事になる。トリガーは福島原発事故であり、背景にはドイツ国民が原発の継続を嫌い、脱原発を政策の中核に置く、緑の党と社会民主党(SPD)の連立野党を支持する事にある。

言うまでもない話であるが、ドイツは2年連続してBBCの調査で世界に良い影響を与えた国の1位に選出されている。多くの国がドイツに追随するのは必至だ。既に同じドイツ語圏に位置するスイスでは国民の何と90%弱が原発に反対している。

口が達者で外交上手な事で、フランスはEU内で一定の地位を維持しているのは事実である。しかしながら、高度な科学技術と圧倒的な経済力によりEUの基幹エンジンがドイツである事に異議を唱える人間はいないと思う。

予想されるドイツの政権交代が、EUの今後にどの様なインパクトを与えるのか注視の必要がある。

さて、翻って日本である。

WSJのこの記事を読んで不愉快になったのは果たして私だけだろうか?

地政学的リスクの高まりつつある中東からの原油輸入を膨らまし、オイルショックに対し日本を極めて脆弱な状況に陥れた、経済産業省の政策の誤りに就いては一昨日説明の通りである。このA級戦犯とも言える、前資源エネルギー庁長官が今回大惨事を引き起こした東京電力に天下するとは、厚顔無恥の度が過ぎているのではないか?経済産業省から総勢7人が天下っていると言う事だが、ただただ、唖然とするしかない。

監督官庁と管理される立場の民間企業間の馴れ合い、もたれ合い、不透明な天下り。天下りを有利にする為の官僚による恣意的な規制運用。官と民の責任のたらい回し。そして結果としての置き去りにされる被害者、地区住民。
これに対しWSJは下記の様に説明している。

この慣行は「天下り」と呼ばれている。原子力行政を規制する経済産業省の元官僚7人は、東京電力で民間部門の給料を受けていた。

 そのうちのひとりが石田徹・前資源エネルギー庁長官だ。彼は昨年退官し、数カ月後に東京電力顧問に就任した。

 東京電力は、日本の北東部に今、放射能を拡散している福島原発を運営している企業だ。福島原発には事故の歴史があり、東電は安全性のデータ改ざんの過去を持つ。東電とその監督当局は、今回の危機への対応が遅れたと批判されている。

そもそも、一昨年の政権交代はこの様な古く成り機能しなくなった日本の古いシステムを刷新し効率的で透明性の高い物に作り替える為に成されたのではないか?そして、何一つまともな事が出来ていないのではないか?

菅政権を観て感じるのは、首相以下保身と小賢しいパフォーマンス以外何もないと言う空虚な実態である。結果、官僚は放し飼い、好き放題、やりたい放題となり今回のWSJ指摘の通り、世界に恥を晒している。

一方ドイツは差し迫った問題がある訳ではないし、現政権が何か特別な失敗の責任を問われている訳でもないが、あるべき将来の為に政権交代に動いている。

これを観るにつけ、日本も急ぎ政治を中心にした、あるべきリーダーシップの確保、個人の自立を急ぐべきと思う。

閉塞状況にある日本は、ドイツから学ぶ事が実に多そうである。

山口 巌

コメント

  1. smm001 より:

    気持ちは分かるけど熱くなりすぎです。
    何書いてるかわかんない。

    具体的にどうすれば良いのかを書いて欲しいです。
    つまり、どういう制度設計を目指せばよいのか、ということ。
    ドイツから何を学べば良いのか。

    天下りがあっても「またか」としか思えないのが日本の悪い所です。
    どうすれば…いいんだろう。

  2. igor72 より:

    福島原発事故の国際的な反応として、西欧の地政学的な背景を述べることが面白かったです。私はポーランド人です。

    皆さんが多分びっくりするが、ポーランドは今まで、原発は一軒もありません。社会ポーランドの時代(89年前)、70 ~ 80年代は当時の行政がポーランドの海岸で初めて一軒の原発を建設計画したが、同建設を初め、失敗したのです。後はこの計画がやめられていました。(ポーランドの主なエネルギー源は石炭です。)1989年後(東欧で初めて)民衆の道に辿ったポーランドの政権が再び同じ場所で建設計画を深く考えていました。国民の反対声が発生して、この計画もやめられました。

    今回、ポーランドも福島原発事故の後で、トゥスク首相が「とにかく原発を発達していきたい」と簡単に宣言しました。今は、激しい論争がまだ発生していませんが、最初のマスコミ関係者よりのコメントが殆ど反対でした。(一軒もないのに)

    私も、原子力発電の技術が、過去の話だから、どんどん新しいエネルギー源の技術を発達しながら、元々の計画をやめたほうがいいと思います。…

  3. gari より:

    民主党がダメだから、政権交代しようとしても、自民党もやはり、天下りの温床を長年にわたり作り上げた政権であり、何ら信頼に足るものは何もない。日本国民にとって不幸なのは、有効な選択肢がない事です。また、鳩山政権見ると、政権交代した政権として真面目に改革をしようとしたら、民放テレビ局が普天間問題で鳩山政権を叩きつぶした事からも分かる通り、日本のテレビや新聞の記者クラブマスコミが展開する枝葉末葉の議論で、他の議論を津波のように押し流してしまうジャーナリズムにも問題があります。
     
    日本を変えるのに必要なのは政権交代よりも、報道改革の方が崎田と思います。なぜなら、どんなに真面目に仕事をしようとしても、枝葉末葉の議論で潰されてしまうのですから、政治よりもジャーナリズムの改革の方が急務だと思います。