日銀の直接引き受けが「金融危機」を呼び寄せる可能性

2011年04月02日 21:26

日銀の直接引き受けは変わらず断固反対であるが、理由としては、先日記述した財政規律という観念的なもの以外にも、“現実的な脅威”として、日銀の直接引き受けが「金融危機」を呼び寄せる可能性があるからだ。


よく識者が言うように、「通貨の信認が失われる結果、長期金利が上昇し、政府の利払い費の負担が大きくなる」可能性があるのも事実だが、これは“即座に”大きな脅威になるかと言えば、必ずしもそうではない。

なぜならば、平成23年度予算案における国債の発行予定額は169.6兆円であるため、仮に1%、2%の金利上昇が起きた場合でも、平成23年度に膨らむ利払い費は、数兆円程度にしかならないからだ。もちろんこの影響を軽視する訳にはいかないが、この利払い費の増加が即座に財政破綻につながるかと言えば、そうではない。

それ以上に忘れてはならない現実的な脅威は、「金融危機」が起きる可能性である。日銀に“強制的に”国債の直接引き受けをさせることで、市場に「日本政府は既に市場から資金を調達できなくなるほど、財務状況が悪化してしまった」と誤ったメッセージを送ることになれば、債券と利回りの関係は逆であることから、金利の上昇と共に国債価格は下落する。

ご存じの通り、日本の金融機関は、巨額の国債を保有している。具体的に、2010年9月現在の主な金融機関の国債保有残高は次の通りである。

・ゆうちょ銀行:149.3兆円
・三菱UFJフィナンシャル・グループ:43.5兆円
・みずほフィナンシャルグループ:28.3兆円
・三井住友フィナンシャルグループ:20.6兆円
・かんぽ生命:66.0兆円
・日本生命:12.5兆円
・第一生命:10.9兆円
・日本銀行:76.7兆円

ゆうちょ銀行など、預金175.0兆円のうち、国債が85.3%を占めている。預金のほぼすべてが国債にすり替わっていると理解して良いだろう。また純資産は9.1兆円であるため、純資産の16.4倍も国債を保有している。計算上は、わずか「6.1%」国債価格が下落すれば、純資産のすべてが吹っ飛ぶ。

もちろん「満期保有目的債券」として国債を保有していれば、必ずしも決算毎に損失計上をする必要性はない。また金利の上昇から生じる国債価格の下落率は、国債の平均残存期間にもよるため、国債保有の絶対額だけで論じるのは誤りである。しかし、金利の上昇が起きれば、国債価格の下落と共に資産の劣化が進むのは紛れもない事実だ。

厳しい条件を付けたうえで、数十兆円の国債を日銀が直接引き受けるのであれば、長期金利の上昇は起きないかもしれない。しかし、この施策を大きな脅威として捉える人も多いように、やはり長期金利の上昇が起きるかもしれない。

すなわち、この施策は結果を「運」に委ね、大きな「賭け」の要素を強くはらんでいる。もし、その「賭け」に失敗すれば、長期金利の上昇が起き、国債バブルが崩壊する。そうなれば、金利1%の上昇で国債の保有から生じる損失は地方銀行で約4兆円と言われているように、金融機関の損失は巨額なものとなろう。まさしく金融危機の勃発だ。

経営が危なくなった金融機関には、公的資金が投入されるかもしれない。その原資を何に求めるのか。このタイミングで、ようやく徹底した歳出削減や大増税に踏み切り、公的資金の原資とするのだろうか。しかし、追い込まれたタイミングでの歳出削減や増税は、うまく行かないであろう。

もしくはその原資を国債に求めるのか。そして、また日銀による国債の直接引き受けで資金を調達するのだろうか。度重なる日銀による国債の引き受けは、間違いなくコントロール不能な激しいインフレを招くため、日本経済は崩壊する。その結果、あなたの預金や保険などの大切な資産もその価値を失う。

リフレ派が好む、紙幣のバラマキによる通貨価値の下落で、デフレから脱却し、物価がマイルドに上昇して名目GDPも増えていく、といったような施策は、5年前、10年前であれば、まだ良かったのかもしれない。しかし、今は、これだけ多くの金融機関が巨額の国債を保有している以上、極めてリスクの高い施策だと断言できる。それが良いか悪いかではなく、金利の上昇(=国債価格の下落)を招く可能性があるため、もはや実行出来るものではない。

歳出削減、増税を嫌うのであれば、「市中消化」による国債の発行で良いではないか。なぜ、金融危機のリスクを冒してまで、このような施策を主張するのかが理解できない。金融危機が起きて、日本経済が壊滅的なダメージを受けても構わないと思っているのか。長期金利の上昇が絶対に起きないと主張するのであれば、その根拠を明確にしていただけないか。

最後に、日本銀行の純資産は2.5兆円しかないが、保有する国債の下落により、仮に日本銀行が債務超過に陥ってしまえば、日本円は信用を保ったまま使用され続けるのであろうか。

井上 悦義(アゴラ執筆メンバー) 
ブログ:http://d.hatena.ne.jp/etsuyoshi/ Twitter:http://twitter.com/etsuyoshi

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