東京電力の改革のために重要なこと、重要でないこと

小幡 績

東京電力が提出した供給計画に福島第一原発7号機、8号機の増設が盛り込まれていたという。

あまりに稚拙だが、感覚が鈍いのでも悪意があるわけでもない。体質であり、組織の歪だ。


体質というのは、新しい環境変化に対し行動を変えるということができないことをあらわしている。そして組織的な硬直性がそれをさらに強化している。

もちろん本気でこれを実現するなど毛頭考えておらず、これはやばい、と思っているのだが、お役所に提出しなければならない書類は期限までに退出しなければならない、その書類を書き直す時間はない、新しい計画は決まらない。だから、あえてそのまま出しておくが、実現を意図したものでは全くない、ということだろう。

普通なら、現状では見直す状況にないので、提出の延期を願えばそれで済むのだが、その行動ができないということだ。だから、実は本質的にはあまり深い意味はない。ただ、自らの首を絞めることは間違いない。

だから彼らは悪い人たち、悪い組織というより、稚拙な組織というべきだ。

問題は悪意がない稚拙さは罪深いことがあり、このケースはそれが出てしまったということだ。本当に悪人なら、今この計画を出さずにタイミングを見て打ち出すだろう。実現する気があるなら、今これを出すはずがない。全く逆だ。

だから、このミスは東京電力の意図を考えるときには重要ではない。ただ、このミスが与える社会的影響は大きいだろう。そして、東京電力を今後組織改革するときに、何が原因で稚拙さを招いているのかを考える必要があるから、重要でないミスをしてしまい社会的に大きな影響をもたらしてしまうという構造を念頭においておくことは重要だ。

コメント

  1. horiems より:

    今までの惰性で組織が動いているのでしょう。
    下等生物には、頭を切断しても動くものがありますが、それと同じ。おそらく管理層はいてもいなくても、平時は機能していたのでしょう。よって、管理層は仕事をしてないということになります。

  2. ねこのまんさく より:

    >> だから彼らは悪い人たち、悪い組織というより、稚拙な組織というべきだ。

    事故後の広報を見ても、その通りだと思います。
    情報を隠している、操作していると言う人たちもいましたが、むしろそう言う人たちの方が広報能力を買いかぶりすぎてます。

    これで社長が日本広報学会の会長だったって言うんだから…。
    http://jsccs.jp/about/organization.html
    (これは日経ビジネスOnlineの記事で知りました)

  3. yunusu2011 より:

    ちゃんと事後評価する必要があると思いますが、実は、東京電力では、ちゃんとした「官僚制」が機能していないということではないでしょうか。
    今回の政府の対応に広げても、「リーダーシップ」、「政治主導」
    という聞こえのよいことで、ちゃんと「官僚制」を機能させることを
    怠ってきたむくいではないでしょうか。
    (参考文献「組織戦略の考え方」(ちくま新書 沼上幹著)をみると、「組織設計の基本は官僚制」というもっともなことに立ち戻る必要があるのでは。)

  4. kokusa より:

    私は稚拙でも何でも無いと思います。
    スリーマイルアイランドは現在も稼働中であり、あのチェルノブイリでさえ、事故を起こした4号炉以外の1~3号炉は2000年まで稼働していました。
    今回のことで再考しなければならないのは、東京電力の管内では到底電力が不足するので、新潟、福島、青森(建設中)に原子力発電所を設置し、長大な送電線を建設して首都圏まで持ってきているという事実です。
    40年も前のGE製の原子炉ではなく、最新鋭の原子力発電所を増設して、旧型の原子炉を廃止する予定だったと思われますので、全く合理的な判断です。
    もし、これを許さず、停止中の福島第2や定期点検で停止中の柏崎を稼働させずに、計画停電に長期間耐え続けるという選択するのはあまりに不条理です。
    電力を必要としているのは首都圏であり、福島の放射能汚染を起こしている放射性物質は首都圏で使った電気から生じたものです。

  5. kokusa より:

    東京電力は非常に風通しが悪く、いわゆる大企業病が蔓延していたことは疑いようのない事実だと思います。
    しかし、今回の供給計画の件はそれとは直接関係がありません。
    電力会社は電気事業法で供給責任を課されており、毎年年度末には翌以降年の供給計画の提出を求められています。
    こんな状況で翌年以降の見込みを立てるのはそもそも困難ですが、供給責任を放棄できるわけはありませんので、数字合わせになることは分かっていても他に織り込める計画がない以上、記載するしかなかったのではないかと考えます。
    東電の改革は不可欠だと思いますが、私は国営化の議論には反対です。まずは自己改革の方針を明らかにして断行すべきです。
    国営化して何が良くなるというのか、全く分かりません。旧国鉄の例を出すまでもなく、国営で事業を行うことの非効率は明らかですし、原子力を国営にしたらいっそう硬直的で事故が続発すると思います。

  6. ta_shim より:

    東電擁護意見もありますが、
    これまでの行動を見ていれば、ただ単に東電の組織・体質が稚拙なだけというこの論が正しい気がします。

    将来の電力不足を回避するためには、あえて批判を恐れず、大望を持って原発増設を発表したとは思えない!社長が病気療養で逃げる会社ですよ。
    病身を押して社長が会見発表するなら分かりますが。

    日本は、「モノ」にかかわる技術を磨き上げてきました。
    関わる基礎科学力や、製造技術は世界トップクラスに間違い有りません。
    しかし、国家、行政から、会社などの組織構造や運営方法、意志決定システムに関しての「理論」や「技術」は磨いてきたでしょうか?
    サービス業も含めて、そういった社会面、ソフトパワーのような部分でも進歩錬成が必要なはずなのです。

    日本は「モノ」以外の対象については、真剣に検討し、磨きあげることは怠ってきたように思えます。

    官僚支配、文系支配の弊害でしょう。