原発パニックという過剰コンプライアンス

2011年04月26日 10:39

福島第一原発の冷却作業は落ち着き、東電も工程表を発表したが、「放射能の恐怖」をあおる言説が跡を絶たない。これは日本社会の病である過剰コンプライアンスの一種で、行動経済学的なバイアスとして説明できるが、合理的行動として説明することも可能だ。


ブログでも書いたように、マイクロシーベルトのレベルの放射線は人体に無害だが、政府は微量の放射線も人体に影響するという前提で避難勧告などを出している。これは行政の行動としては合理的である。避難させないで事故が起きた場合は行政が批判を浴びるが、過剰に避難させて何も起きなくても、経済的な損害を賠償するのは東京電力だからである。

このように行動の利益とコストが非対称になっていて「表が出たら私の勝ち、裏が出たらあなたの負け」という構造になっていると行動がゆがむのは、金融や保険でおなじみのモラル・ハザードである。BSEのときも、たった1頭のアメリカ牛が汚染されていただけで、すべてのアメリカ産牛肉が輸入禁止になった。何も起らないことで官僚は地位を守れるが、過剰コンプライアンスのコストは納税者が負担する。

このような行政のバイアスを補正するのがメディアの役割だが、むしろメディアがバイアスを増幅している。リスクのはっきりしない事象を「危険だ」と報道することは一種の賭けだが、これが正しければ読者を引きつけることができる一方、誤っていたときは責任を行政に転嫁できるからだ。

今回の原発事故でも、マイクロシーベルトの放射能汚染をメディアが誇大に騒ぐため、福島産の農産物に風評被害が広がっているが、どんなに騒いでもメディアは責任を問われない。行政が避難勧告を出したからだ。このような多重のモラル・ハザードによって、ほとんど実体のない仮想的な「被害」が拡大している。

ただソーシャルメディアでは(一部の自称ジャーナリストやそれにあおられた素人を除いて)比較的バランスのとれた情報が流通している。普通の個人には、上にのべた行政やメディアのようなインセンティブの非対称性がないからだ。モラル・ハザードを防ぐには、正しい情報を流通させて情報の非対称性をなくすことが一番の対策である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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