エネルギー政策の目的は何? エネルギー政策基本法を確認しよう - 岸田 信勝

アゴラ編集部

ソフトバンクの孫社長が「自然エネルギー協議会」なるものを発足し、自然エネルギー開発に動き出した。菅総理もG8席上で、脱原発を目的に太陽光発電の促進を公言した。どちらも、社会構造を変えても原発依存度を下げるため、自然エネルギー(再生可能エネルギー)である太陽光発電の普及を促進するというのである。

孫社長は原発は「悪」で、自然エネルギーの推進は「正義」であるといい。菅総理はエネルギー政策を白紙に戻すといった。そもそも、現行のエネルギー政策とはどうなっているのか。そこには彼らのいう「悪」や「正義」はどう描かれているのか。国民は理解しておかないといけない。


エネルギー政策に関しては、エネルギー政策基本法が平成14年に公布されている。ここに書かれている目的には以下のようにある。

(目的)第一条  この法律は、エネルギーが国民生活の安定向上並びに国民経済の維持及び発展に欠くことのできないものであるとともに、その利用が地域及び地球の環境に大きな影響を及ぼすことにかんがみ、エネルギーの需給に関する施策に関し、基本方針を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、エネルギーの需給に関する施策の基本となる事項を定めることにより、エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進し、もって地域及び地球の環境の保全に寄与するとともに我が国及び世界の経済社会の持続的な発展に貢献することを目的とする。

また、全文に目を通してみても、この法律にはどこにも原発を促進するとは書いていない。「悪」の権化となりそうなものもない。この基本法の第十二条には、以下ののように政府はエネルギー基本計画をたて、常に見直さなければいけないと記載されている。

3 政府は、エネルギーをめぐる情勢の変化を勘案し、及びエネルギーに関する施策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも三年ごとに、エネルギー基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。

この条項によって、最新版となる計画書が、経済産業省より平成22年にエネルギー基本計画が公表されている。内容としては、最近の温室効果ガス削減を受けて、原子力推進の様相が多少強くなっているものの、「第3章目標実現のための取組」では一番に再生可能エネルギーの導入拡大が記載されている。自然エネルギー促進派にとっても都合の悪いものではない。私が読む範囲では、数値目標や技術的評価に関して見直しは必要かもしれないが、基本的には震災後もこのエネルギー政策基本法の改定は必要ないものと感じる。

ただし、今回の原発事故を踏まえて、「原発の安全性基準の再評価」「安全性の緊急確保を盛り込み」および「老朽化した設備更新の前倒し(ただし、新規設備は原子力に限るものではない)」はぜひ付け加えるべきだ。また、電力会社の経営体質の改善および品質マネジメントの導入くらいは盛り込んだほうがよいかもしれない。

品質マネジメント関係の業務を担当したことのある身で言わせてもらえば、外部電源の喪失の可能性はかねてより指摘されていたもので、品質マネジメントにおける基本的なPDCAサイクルに基づき改善を継続していったのであれば、今回の事故は起きえなかったように思える。今回のような「絶対安全」神話によるモラルハザード(リスクの隠ぺいや形骸化された監査など)は、きちんと司法立場でで明確な判断がなされるべきである。

もう既に今回の地震と津波の規模は、有史以来、最大級のものである。今回のレベルの想定して、多少安全率を確保すれば、今後同様の事故は発生し得ないと考えられる。つまり最悪の事態は経験したのだから、それに対して対策をすればよいと私は考える。

エネルギー政策を再考すると、やはり現代において、電力は社会の血液のようなものであり、安定供給が第一であると考える。それは、電力不足による停電が発生したときの被害を想定すれば、理解してもらえると思う。国家の責務としての「電力を安定供給」は、憲法で保障している経済的自由権、精神的自由権を保障のベースになるもので、主権国家として果たさなければならない義務と思う。

ここで誤解のないように、電力の安定供給の定義をしたい。それは「定格(電圧、周波数)の電力が、できるだけ安価で、常に供給され、誰でも利用したいときに利用できること」と提案する。

この「電力を安定供給」がエネルギー政策の目的であって、その手段としての発電形態(原発なのか、太陽光なのか)、発電/送配電の分離、電力市場の自由化など各種問題は、多角的にかつ客観的に、分析・評価全体最適化をするのが良いと考えればよい。特に発電に関しては、その様式において、メリット、デメリットがあり、それをQCDで評価して、多様性のあるシステム設計が肝要である。

逆に、人命第一として、自然エネルギーの導入を必要以上に急ぐことは、補助金増大や買取り単価の吊り上げに直結し、必要以上のコスト上昇となる。それは明らかに、財政圧迫による増税や電気料金の値上げに直結し、国民の負担になるだろう。金銭的な負担だけではなく、日本国民にとって最悪なシナリオが待っているかもしれない。(現時点でそのリスクを数値化できないため、ここでは論じない)かつて人命第一として医療訴訟を起こした結果、緊急医療が空洞化した例などを参考にしてほしい。

最後にまとめると、エネルギー問題は、脱原発を目的と考えるのではなく、エネルギー政策基本法にあるとおり「国民生活の安定向上並びに国民経済の維持及び発展」を目的に考えるべきである。孫社長は冷静に補助金や買取価格高騰抜きに「イノベーションと技術」でソフトバンク社と国民とがWin-Winになるビジネスモデルを期待し、菅総理には法治国家のトップとして法的モラルを保っていただきたいものだ。

(岸田 信勝 総合電気メーカーIS子会社勤務)