農業利権を食い物にするソフトバンク

池田 信夫

孫正義氏が、鹿野農水相がシンポジウムに飛び入りして彼の「電田プロジェクト」に協力すると約束したことに感激している。

この大臣の発言は本当に大きい! RT @masa_toku: 鹿野農水大臣「電田PJ、やりましょう。耕作放棄地3/4使える。」


農水相がソフトバンクの太陽光発電所に飛びつくのは当然だ。全国の耕作放棄地は38.6万haで、農地の9.7%が遊休化している。これは補助金を払って減反させているためで、その額は年間2000億円。維持管理も大変だから、これをSBが借りてくれるなら、無償で提供しても助かる。それが34もの道府県が「自然エネルギー協議会」に参加した理由だ。他方、SBにとっては耕作放棄地を無償で使うことによって用地買収が必要なくなり、固定価格買い取りで利潤は保証される。

しかしこの構想には、多くの難点が指摘されている。最大の問題は、耕作放棄地が山間部などに点在し、太陽光発電に適した広い土地がほとんどないことだ。孫氏は「発電所に適している1割ほどを使うだけだ」というが、そういう広い平地は大規模農業にも宅地にも適している。

しかも農地の取引は農地法で禁止されているので、農業委員会の許可がなければ転用できない。農家にとっては、何も仕事をしないで減反補助金がもらえる現状が最高なので、これを高度利用するインセンティブもない。株式会社の参入も禁止されているので、企業が農地を高度利用することもできない。それを行政がSBに独占的に使わせるのは、補助金で借り上げた土地を無償で供与するようなもので、不当な利益誘導だ。

こうした農政の問題点は、「守旧派」の経団連でさえかねてから指摘してきた。SBが農地を利用するなら、まず農地法や減反制度を撤廃し、耕作放棄地を通常の不動産市場で借りるのが当然だ。ところが孫氏は、補助金漬けの休耕田を無償で借りることによって利益を得ようとしている。これは現在の社会主義的な農政にただ乗りして税金を食い物にするrent-seekingである。

おそらく孫氏は、農政の実態を知らないで善意で言っているのだろうが、農水相(鹿野氏は民主党の「農水族」の中心)がホイホイ乗ってくること自体が、農業利権を温存する証拠である。「光の道」にしても「メガソーラー」にしても、孫氏の提案は国家の経済への介入を求める国家資本主義だが、こういう政策は先進国では失敗が約束されている。農業利権に悪乗りすることは結果的には市場をゆがめ、農業も電力もめちゃくちゃにするだけだ。