ソフトバンクの孫正義氏が大々的に推進するなど、最近では自然エネルギーへの注目が集まっている。しかし、マスコミではイメージが先行し、その可能性と限界を正しく理解している人は少ないように、筆者は感じている。そこで、今日は自然エネルギー推進派のひとりとして、自然エネルギーに関わる不都合な真実も公平に論じたい。
ところで、自然エネルギーというのは再生可能エネルギー、英語の”renewable energy”のことを指す。多少、違和感のある言葉だが(原子力も火力も自然エネルギーだ!)、風力、太陽光、地熱などから得るエネルギーの総称として、日本で定着した「自然エネルギー」という言葉を筆者も使うことにする。
不都合な真実1 自然エネルギーも環境破壊する
自然エネルギーは環境にやさしい、と思われがちだが、残念ながらいくつかの環境破壊を引き起こしてしまう。風力発電では、低周波や太陽光を風車が周期的に遮るストロボ効果による周辺住民への健康被害、野鳥を殺してしまうバードストライクなどがよく知られている。
ソーラーも環境破壊とは無縁ではない。菅直人首相が国際公約してきた日本のソーラー1000万戸計画だが、有毒物質を多数含む蓄電池を、管理の行き届かない1000万戸もの一般家庭に取り付けるなど、寿命がきたときや、故障したときの産業廃棄物処理の観点からいえば、完全に悪夢である。またソーラーパネル自体は、現在、シリコン系とカドミウム・テルル系の二種類が主流だが、いずれにしても寿命が来れば大量の産業廃棄物を生み出す。特にカドミウムは、日本の四大公害のひとつであるイタイイタイ病の原因物質であり、非常に毒性が強い。
また、大気からエネルギーを搾り取る風力や、太陽光を遮る太陽光パネルは、当然、周辺の生態系に影響を与える。
不都合な真実2 注目のソーラーは世界のエネルギー供給の0.1%、日本では0.1%以下である
マスコミなどは世界の太陽光発電の取り組みなどを紹介し、あたかも世界のエネルギー源のひとつになりつつあるかのように報道するが、総エネルギー消費量の内、そのシェアは世界でも日本でも0.1%程度である。下の図は世界の総エネルギーの内訳である。
出所: BP Statistical Review of World Energy, June 2011より筆者作成
資源エネルギー庁の資料によれば、日本では太陽光発電、太陽熱利用、バイオマス直接利用、風力発電など全てを足しても、これら自然エネルギーはエネルギー消費全体の0.2%にしかならない。
不都合な真実3 実は日本は自然エネルギーの開発においてすでに世界のトップレベル
今まで自然エネルギーに全然取り組んでいなかったのならば、今後、伸び代も期待できるかもしれない。しかし日本はすでに世界有数の自然エネルギー大国なのである。下の図は、太陽光発電施設の総容量の国別のシェアを示している。日本はドイツ、スペインにつぐ世界第3位なのである。
出所: Renewables 2010 Global Status Reportより筆者作成
1970年代のオイルショック以降、日本国政府は太陽光発電に狂ったように税金を投じた。サンシャイン計画、ニューサンシャイン計画、ムーンライト計画、そして菅直人のサンライズ計画。兆単位の国民のお金が次々に投入された。実際に欧米がバブル景気になる2000年代まで、日本は太陽光発電の分野で圧倒的な世界一だったのである。
ところが金融バブルであぶく銭を掴んだ欧州諸国が太陽光発電に狂ったように補助金を投入し始め、日本のメーカーのソーラーパネル製造No.1の地位は欧州に受け渡すことになった。
不都合な真実4 現在の欧州の自然エネルギー関連メーカーは死屍累々
シャープや京セラなどのソーラーパネルの生産でトップを走っていた日本企業を、鮮やかに抜き去っていったのがドイツのQ-Cellsというベンチャー企業であった。
出所: Yahoo! Financeより筆者作成
しかし一時は100ユーロ近かった株価が、今はわずか1.3ユーロ。75分の1になってしまった。自然エネルギーに積極的だったスペインなどが財政破綻してしまい、発電の足しにならないソーラーなどの補助金をカットせざるをえなかったからだ。
もうひとつは中国メーカーの躍進で、欧州のメーカーは中国と競争できなくなってしまった。自然エネルギーに力を入れるドイツの電気代は非常に高い。ソーラーパネルは製造に大量の電気が必要なので、皮肉なことに自然エネルギーに力をいれている国では製造できないのである。
現在、グリーン・バブルが崩壊し、自然エネルギー関連企業が死屍累々と横たわっている。
不都合な真実5 メガソーラーの発電量を原発と比べると・・・
下の写真は、国内最大規模の建設中のメガソーラーである。
順調に行けば年間740万kWhのエネルギーを産み出す、怪物級の太陽光発電施設だ。これは菅直人首相が止めた浜岡の5号基の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の5時間半分である。浜岡原子力発電所全体では小1時間ぐらいで、この国内最大のメガソーラー1年分の電力を生み出すことができる。
過去40年以上、太陽光発電の研究開発は多額の税金を投じて行われたが、これが現状である。
筆者は、常日頃から地球環境問題を真剣に考えている。よって常に自然エネルギー推進論者であった。今もそのことは全く変わっていない。しかし日本国民は、自然エネルギーの可能性と限界を冷静に見極める必要があるのではないだろうか。