五山送り日が「可哀想な結論」に終わった理由 - 城 武晋

2011年08月18日 18:40

京都の五山送り火の問題は、個人的に「可哀想な結論」に終わった。 この問題により、失われた損失は何であろうかを考えた時、まずは被災地の復興が第一に頭に浮かぶ。

学校などで被災地の子供に対する差別が起きている事が社会問題になったのに、伝統あるよう京都がそれを助長するような行為をしたのだ。被災地差別が正当化されないか、それが気に掛かるのである。

国としては被災地もいつまでも被災地扱いしてはいられず、経済的に立ち直り、日本経済に貢献してもらわないとならない。しかし、こういった意味のない差別は復興の障害になって行く事は確実だ。 失われた損失に関して言えば、もう一つは伝統の失墜がある。


少し話は変わるが、何故、京都の送り火は多くの観光客を集めるのだろうか、科学的に見れば、送り火なんて、所詮、“山で木を燃やしているだけ”なのである。定期的にその辺の家庭がしている焚き火が観光名所になるかといえば、当然、ならない。

中国あたりで京都の送り火を模倣したら観光名所になるかといえば、まあ、ならないであろう。科学的に見れば、たかが、火を燃やしているという事象に畏敬の念が持たれ、衆目を集めるのは、そこに伝統という非合理なファクターがあるのだ。だからこそ、科学的にみれば、たかが、「木が燃えている」、何か神秘的な印象を見ている人間に与えるのだ。

伝統の持つ魅力とは何なのであろうか。よく言われることだが、料理に化学調味料を使うとする。恐らく、一部の味覚に鋭い人間で無い限り、微量の化学調味料は気づかないだろう。しかし、それを使うと料理の格は落ちることがある、それが伝統料理であれば、尚更だ。

伝統の持つ魅力というのは、合理性から一線を画す事によって生じる。大衆に受け入れられる必要があるが、世俗に迎合してはならないのである。時として、不合理があるからこそ、伝統は人を惹きつけるのである。

例えば、神社の鳥居を鉄筋コンクリート製にしてみたらどうだろうか、神主の行う祝詞(のりと)をDVDで代替出来るだろうか。もちろん、必然性があれば伝統も合理性を採用することまでを否定するものではない。

神社のトイレは全て汲み取り式に戻せというわけではない。ただ、「合理性」と「過去からの継承」のバランスを取っていくか、これが伝統を受け継ぐものの義務なのであり、またそこに美しさがあるからこそ、人は伝統に敬意を表するのである。

一連の放射線を巡る騒動は、まだ放射線の実害が確定していない段階で専門でない私は断言することはできないのかもしれないが、人体への影響は政府が言うとおり、「ただちに影響がない」どころかほとんどないものであるし、その害はタバコや水産物に含まれる水銀よりも低く、むしろ、毎日の食生活に起因する高コレステロール、高血糖、高血圧の方が遥かに危険だとは容易に想像する。

数年後には放射線の騒ぎは、過去の狂牛病がそうであったように忘れ去られ、数十年後から振り返ると今のこの騒ぎがさながらチャップリンの映画のように見えることは容易に想像出来るし、また、その数十年後の日本人がまた、この騒動を忘れて、次のドタバタ劇を演じているであろうことさえも容易に想像できる。

この国民上げてのドタバタ劇はおそらく日本人のDNAであり、おそらく、数十年やそこらで治癒するものではないだろう点は甚だ心配である。また最大のポイントとして、今回の事は、科学的な根拠が全く無いのである。

既に伝統と合理化のバランスを取るのが継承者の課題と書いたが、つまりこれは全くもってバランスがとれていないのである。ヤジロベーでいえば、完全に落ちている状態なのだ。

少し話は逸れたが、数百年という伝統を持つ行事が、おそらく来年には再度この騒動があった事が話題に上がり、京都の贖罪も兼ねて、「放射線検査」という儀式を経た上で東北の松を使うという結論に帰着し、そして更に数十年後、放射線の害が大したものではないと結論付けられた際には再度、汚点を残した事が明らかになるのである。

もはや五山の送り火はかつてほどの神秘性をもって人からは見られないであろう。人によってはここがターニングポイントになり、単に「木の燃焼」と映るのではないだろうか。

今回の決断について伝統の継承者がした近視眼的な決断は、後世の後継者に対して非常に罪深い結果を残したのだろう。その罪は過去引き継いできた人間、これから引き継ぐ人間に対して負うべきものと考えると、心理的にどれほどの重みが掛かるのだろうか、時には夜も眠れないのではないだろうか、しかも一度、瑕疵が生じてしまった玉はもう元には戻せないのである。

そう考えると、甚だ、同情を禁じえない。これが今回の問題は個人的に可哀想な結論に終わったと考える次第である。
(城 武晋 総合商社勤務)

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