民主党代表選と脱原発騒動の終焉

藤沢 数希

民主党の代表選挙が行われる。週明けの29日に選挙が行われ、日本の新しい首相が選ばれることになる。そして30日には内閣総辞職が行われ、新首相が指名される。野田佳彦財務相、海江田万里経済産業相、馬淵澄夫前国土交通相、小沢鋭仁元環境相、鹿野道彦農相らが立候補に名乗り出ており、乱戦が予想されたが、前原誠司前外相が立候補したため、新しい首相は前原氏でほぼ決まりだろう。民主党内の小沢グループと反小沢グループのパワーバランスにより、前原氏の対立候補に票を集中させようというパワーゲームが行われるかもしれないが、筆者はその可能性は非常に低いと考える。現状で小沢グループがそこまでの力を持ち合わせているとは思えず、だとしたら、前原誠司という国民的人気も高い「勝ち馬」に乗り、党内での力を保持しようと考えるだろう。


前原氏はTPPに関して「1.5%(農業の日本のGDPに占める割合)を守るために98.5%を犠牲にするのか」と言い切ったこともあり、筆者は彼の芯の部分は間違っていないと考えている。前首相の鳩山由紀夫は「市場至上主義から国民の生活や安全を守る政策に転換し、共生の経済社会を建設する」などと、共産革命を志向するような心底気味悪い文章をどうどう発表していた。この反資本主義、反米思想に、世界の良識ある人々は背筋を凍らせた。そして案の定、日本を混迷の極地に陥らせた。

前首相の菅直人は街頭演説で「なぜカルロス・ゴーンさんの給料が高いのか。クビ切りがうまかったからだ」と日産自動車のゴーン社長を批判し、その極左ともいえる危険思想を堂々と披露した。その点、筆者は前原氏には多少の安心感がある。少なくとも、共産社会を志向し、日本を旧ソ連や北朝鮮のような国にしようとしていた二人の前民主党代表よりも、はるかに普通の感覚を持ち合わせていると思われる。

また、今回の民主党代表選、つまり日本の新しい首相を決める選挙で、ひとつ興味深いことは、脱原発が争点にさえなっていないことだ。あえて争点をあげるとすれば、それは脱小沢か親小沢ぐらいだ。筆者は、これであのヒステリックな脱原発騒動が終焉したと考える。そもそも政権与党で、既存の原発の再稼働を阻止するなんてことは、本来、絶対にありえないことだ。それは少し考えればわかる。

このまま全原発の稼働を停止すれば、日本は電力不足になり、恒常的に企業は節電を強要されるだろう。これは明らかに強烈な勢いで、製造業の海外移転を後押しすることになる。その結果は日本からの雇用の喪失だ。そして老朽化した火力発電所で代替するために年間4兆円もの余分なコストがかかる。これは国民負担するしかないのだが、政治家はどうやって説明するのか? この状況で電気代に全て転嫁することを、国民に説明できる政治家がいるのだろうか。

仮に政治的に電気代に転嫁できないとすると、金融機関からの融資が止まり、原発比率の高い関西電力や九州電力から順番に破綻していくことになる。本当に破綻させるとなると、どうやって電力の安定供給を継続し、電力会社への債権が焦げ付くことによる金融危機をどうやって収束させるのだろうか。どう考えても現実的ではない。電気代に転嫁できないとなると、政府保証をつけて化石燃料を買う資金を提供し続けるしかない。公的資金、つまり結局税金だ。年間4兆円の追加コストを電気代に転嫁できないとなると、政治家は今度は公的資金を国民にお願いすることになるだけなのだ。より複雑でやっかいな問題といっしょに。

要するに、最初から日本の電力の3割を担う原発の再稼働を止めるなんていうことは、不可能な話だったのだ。マスコミや与野党からバッシングされ続け、精神的に追い詰められていた菅直人は、原発を再稼働させないことにより脱原発解散のカードをひっそりと隠し持ち、最後の生き残りのチャンスに賭けたが、逆に支持率が急落し、自らが指名した閣僚からの総スカンを喰らい、自身の命脈を断つことになった。万年野党で責任のない社会党が言うようなことを、日本の首相は言ってしまったのである。

おそらく前原首相になるだろうが、最初の仕事は、原発立地県に趣き、原発の再稼働をお願いすることになろう。これによりいよいよ反原発ヒステリーは終焉し、日本経済も正常な軌道に復帰する。