迫られる事業ドメインの再定義 --- 村井愛子(@toriaezutorisan)

アゴラ編集部

ひとつの事業の寿命が、人間の寿命よりも短くなったと言われる。例えば、日本のガラケーを中心にしたモバイルコンテンツビジネスは1兆5千億もの経済圏を生み出したが、スマートフォンの隆盛により転換を迫られている。iモードが生まれたのは1999年だから、僅か12年で事業の転換期を向えていることになる。そのサイクルは加速度的に早まっており、事業者はこれまでよりも短期のタームで転換を迫られるだろう。しかも、スマートフォン並みのイノベーションが誕生すれば、既存事業というよりは自社の事業ドメインを再定義し直す必要に見舞われる。


事業ドメインを再定義し直した例といえば、大手携帯電話メーカーのノキアは、1865年創業と歴史は古いが当時は製紙会社であった。長い歴史の中で事業ドメインが「携帯電話機の開発」にシフトしている。他にも身近な例で言うと、モバゲーやグリーは、当初はソーシャルコミュニケーションが事業ドメインであったが、現在はソーシャルゲームのプラットフォームに移行している。成長している会社ほど、時代の流れに適応して事業ドメインの再定義が行われているのだ。

しかし、企業体が大きくなればなるほど、自らの成功体験に縛られて事業ドメインの再定義は行いづらくなる。イノベーションのジレンマというものだ。ノキアもまた、イノベーションのジレンマにはまり、携帯電話の世界市場の覇権をAppleやgoogleに握られてしまう結果となった。

そしてまた、事業ドメインを再定義するということは、社内外含めて大きなハレーションを生むことは避けられない。故にこれを断行できるのは最高決定権を所有する者になるが、多大なリスクを含むため、オーナー社長のみが実行することが出来るのではないだろうか。

スマートフォンが爆発的に普及している現在、事業ドメインの再定義は通信や広告、コンテンツ業界に関わる企業にとっては不可欠であると思われるが、積極的に実行していると思われる企業がある。

インターネット広告代理店のサイバーエージェントである。“インターネット広告代理店の”という枕詞をつけたが、この企業名を聞いて、最初に思い出されるキーワードは「アメブロ」や「アメーバピグ」といったコンシューマー向けのサービスだろう。このアメーバ事業も、開始以来赤字続きであったが、藤田社長が事業部長を兼務し、3年以内に黒字化出来なかったら社長を退任すると公言して、取り組んだ事業だ。公約通り、主力事業に成長し、2011年度の決算では売上高前年比24%増の1195億円となっている。

さらに、藤田社長のブログでは、先日以下のような発表がされた。

“本部(インターネット広告代理店部門)は広告代理業を中心とした組織から、メディア、広告代理、テクノロジー、サービス等、ネット広告に関するあらゆる事業を展開する部門への脱却を目指します”

既にスマートフォンにおける広告分野では複数のADNWが存在しており、従来の広告枠の手売りは、システムにより代替されつつある。今後、アメリカのようなDSPが主流になることを見据えて、枠売りではなく複数の広告配信ネットワークやソーシャルツールを活用する事が出来るプロデューサーを育成しようとしているのではないだろうか。

これは事業ドメインの再定義に他ならないと思う。起業家が生まれにくいと指摘されることが多い日本だが、信念を持った起業家が生まれやすい環境を作ることが出来れば、まだイノベーションが生まれる余地は十分にあるのかもしれない。

村井愛子(@toriaezutorisan)