「経済大国」の終わりの始まり

2011年11月12日 13:00

TPP騒動は、ようやく野田首相の「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」という曖昧な表現で決着しました。これを賛成派は「アメリカの議会承認が必要だから、事前協議は参加と同義」と解釈し、反対派は「協議するだけで参加するとは言っていない」と解釈していますが、常識的に考えて協議の結果、参加しないという決定はありえないので、実質的な参加表明でしょう。


それにしてもここに至るまでの騒ぎは、日本の政治史上に例をみないバカバカしいものでした。条約の締結交渉に参加するかどうかは政府の権限であり、閣議決定さえ必要ない。首相が国会で「参加する」と表明すればいいだけです。過去のウルグアイラウンドや日米構造協議などのときも、参加するかどうかで大騒ぎになったことはない。

それなのに民主党政権は、昨年秋に「情報収集のために各国と協議する」という奇妙な見解を発表して、TPP参加か否かを争点にしてしまった。これを小沢・鳩山グループが政局に利用し、農協や医師会を巻き込んで、恥ずかしい保護主義の大合唱が始まりました。

そもそも大前研一氏もいうように、TPPは「国論を二分する」ほどの問題ではない。彼は「今まで40年にもわたって経営コンサルタントとして企業のグローバル化を手伝ってきたが、貿易障壁があって経営戦略に支障を来した国はTPP交渉参加9カ国では一度もなかった」といっています。だから推進派のいう「アジアの成長力を取りこむ」とかいう情緒的なキャッチフレーズもおかしいが、反対派のいう「日本が破壊される」という類の被害妄想はまったくナンセンスです。

現実には、これから協議を始めても、日本が交渉に参加するまでには最大で半年ぐらいかかり、そのころには交渉の骨格は決まっているでしょう。非関税障壁についてそれほど大きな進展があるとは思えないので、実質的な争点は農産物の関税だけです。日本は参加表明だけでこれだけもめ、しかも首相がそれに配慮して腰の引けた見解を表明するようでは、戦略的な交渉は不可能です。

こんなつまらない問題がここまで紛糾した最大の原因は、民主党の支持率が大幅に低下して議員が選挙を恐れていることでしょう。農協や医師会のもっている票なんか大したことないが、2009年の総選挙のときのような「風」が期待できない民主党議員は、藁にもすがる思いなのでしょう。自民党はもともと既得権を守る党だからしょうがないとしても、それに挑戦する都市型政党だったはずの民主党がここまで農協に骨抜きにされると、もう党としての存在意義はない。

円が強くて悩んでいるのは、今のうちです。早ければ5年以内にも、財政破綻やインフレで円が大きく減価する時代が来るでしょう。今の欧州の状況は、他人事ではないのです。それに歯止めをかけることが政治の最大の仕事なのに、圧力団体の脅しで右往左往するようでは何も期待できない。今回のむなしい騒動は、日本が経済大国としての歴史を終え、破滅の坂を転がり落ちるランドマークになるかもしれません。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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