孫正義氏は天下りに資金を提供するのか

池田 信夫

多田さんも指摘しているように、今回の900MHz帯の「比較審査」は、最初からソフトバンクに割り当てる結論の決まっている八百長です。


総務省の資料によれば、来年900MHz帯に上り下りで合計30MHzを割り当てることが決まっていますが、その「移行費用」の上限は2100億円。これは1MHzで130億円といわれる日本の周波数の相場のほぼ半値のバーゲン・プライスなので、申請する4社は当然すべて2100億円を提示するでしょう。あとの「審査基準」は何とでもなります。何しろ2.5GHz帯では、あのウィルコムにNTTドコモより「財務的基礎がより充実している」というお墨付きを与えた総務官僚だから、作文はお手のものです。

さらに問題なのは、この2100億円が国庫ではなく、移動無線センターという耳慣れない特殊法人に「立ち退き料」として入ることです。この団体の運営しているMCA無線の利用者はもう30万人しかいないのに、数千万人が利用する携帯電話と同じ周波数を占拠しています。役員をみると、常勤の理事6人のうち3人が総務省からの天下り。MCAは、通信業界では悪名高い天下りのための電波利権なのです。

もちろん孫正義氏もこれはご存じです。MCAの機能は携帯端末で100%実現できるので「移行」なんて必要なく、天下り団体を解散してSBがその業務を代行すればいいのです。事実、SBは過去にMCAを買収しようとしたこともありますが、これは法的に無理(特殊法人の買収は前例がない)ということで見送られました。今回の「移行費用」によって、SBは実質的にMCAを割安で買収できることになります。

私は、このように既存業者に補償金を出して周波数を移行することには反対ではありません。経済学でコースの定理として知られているように、「賄賂」によって業者も政府(国民)も利益を得ることができるからです。しかし、その手続きには透明性が必要です。私はそのための周波数の買い取りのメカニズムをITUでも提案しました。FCCも、そういうメカニズムを検討しています。

ところが日本では、官僚が根拠不明な「落札価格」を最初から決め、適当な作文をしてSBに半値で売り、それをまるごと天下りのための特別会計に入れる。これでは中国を笑うことはできない。天下りに反対している孫氏は、SBの払う移行費用が天下り団体に使われることを許すのでしょうか。