アメリカ出張から帰国されたばかりの東大・玉井克哉教授のTPP関連今朝のTweetである。
先日米国出張しましたが、知財関係者にはそもそも知らない人が多かったですね。「何それ?米韓FTAみたいなもん?」という調子で。 RT @ttakimoto TPP論て、感情的な親米vs.反米論に持ち込もうとしている人もいるけど、それは無関係ですな
日本ではアメリカ陰謀論の如き妄言も含めTPP関連議論が活発であるが、アメリカでは知識階層ですら知らないらしい。完璧な日本の独り相撲ではないだろうか?
どうも客観的にみて、TPPに就いて、日本は活発だが的外れな議論に終始。一方、アメリカはそもそも、誰も関心を持っておらず議論以前のステージと言った所ではないだろうか。
それでは、日本での議論を的外れにしたものは一体何であろうか?思いつくのは、
○農業関係者を中心に既得権益者が兎に角大声で反対した。
○イデオロギーに凝り固まった知識人がミスリードした。
○ネットの中での所謂アクセス乞食がアメリカ陰謀説の如き妄言を吐きこれがウイルスの如く感染した。
○議論をあるべき方向にリードすべき、政府やマスコミがTPPを理解しておらず、結果迷走した。
ざっと、上記の様な所であろうか。
しかしながら、私のみる所、問題の本質は政府やマスコミ関係者を筆頭に国民が日本の貿易の実態を理解していない所にあると思う。
何事に就いてもそうであるが、抑えるべき肝心の部分を正しく理解せぬまま、思い付きで皆が適当にあれこれ喋っても話が噛みあう訳がなく、結果如何なる結論にも至らず、議論はまるで馬糞の川流れの如く霧散して終結するだけである。
それでは、早く、手間暇かけず、楽しく日本の貿易実態を理解する方法はあるのだろうか?
日本貿易会が小学生向けに出している資料の一読を推奨する。
特に、日本の貿易相手国のページが示す数字と貿易実態を理解すれば、このテーマに就いて今後恥を掻く事はないと思う。
とは言え、こういう資料を読み慣れていない読者の方も居られると思うので、簡単に解説してみる。
先ず、日本の貿易全体で言うと、直近(2010年)で輸出が67兆円,一方輸入が60兆円で差引7兆円の黒字である。これが円高要因の一つである事は間違いない。
輸出は対アジアが56%で第一位。アジアが今世紀の成長センターである事を考慮すれば近い将来80%を超えても可笑しくはない。従って、日本がTPPに加入するのは当然との結論に帰着する。
一方、輸入はアジアより、が45%で、中近東が17%でこれに次ぐ。地政学的リスクを高めつつある中近東からの17%はほぼ全て石油、ガスである。話はやや脱線するが、産業の血液というべき、石油、ガスの中東依存率を下げる事は喫緊の課題であろう。この観点からも停止原発の早期再稼働と原発の新設を急ぎ検討すべきと考える。
さて、国別はどうであろう?
中国、香港を一体と考え数字を合算して計算する。
対中輸出は総額17兆円で第一位。アメリカが10兆円でこれに次ぐ。
一方、輸入は中国からが13兆円で第一位。アメリカが6兆円でこれに次ぐ。
中国は日本に対し4兆円もの貿易黒字を供与する最高のお得意様である。又、中国からの輸入品は100円ショップで売られている安くてそれなりに質の良い商品であったり、ユニクロの衣料品であったり、その低価格で質の良い商品に日本国民は恩恵を受けている。本当にお世話になっている大事な恩人なのである。
枝野経産大臣は昨年10月尖閣問題を受け、中国は「悪しき隣人」と罵倒、扱下ろした。こういう貿易実態を理解しておれば決して出る事のないコメントである。枝野氏の経済音痴ぶりを見事に曝け出している。又、こういう人間を今尚、経産大臣と言う主要閣僚に留める民主党に政権与党の資格はないと思う。
対韓貿易に就いても誤解が多いので参照してみる。
対韓輸出は5.5兆円。一方、輸入は2.5兆円で差引3兆円の貿易黒字である。視野狭窄で韓国と言えば三星電子の液晶テレビしか見えていない日本の識者、論者はまるで日本の製造業が韓国の後塵を拝しているかの如き妄言を吐くが、実態は日本が圧倒しているのである。
韓国のハイテク製品は日本製のバイタルパーツに支えられており、日本からの輸入を減らす事は不可能である。一方、国策として通貨ウオン安政策を取っており、円建てでの日本からの輸入は採算を厳しく圧迫している事が推測される。又、別の見方をすれば、韓国の輸出拡大は日本からの迂回輸出拡大と理解出来る。
最後に3.11で最大の義捐金を送ってくれた台湾を取り上げる。
対台湾輸出は4.6兆円。一方、輸入は2.0兆円で差引2.6兆円の貿易黒字である。スキームとしては対韓貿易とほぼ同じと理解して良いのでは。それにしても、誠にもって日本の上得意である事が判る。しかも震災に際し最大の義捐金を送ってくれた訳である。日本人は台湾に足を向けては寝れないと思う。そして日本政府として支援出来る事があれば積極的に活動すべきである。
台湾はWTOに加盟しているし、APECの正式メンバーでもある。従って理屈の上ではTPPへの加入資格を備えていると聞く。
就いては、日本が仲介して台湾のTPP加盟に向けて一肌も二肌も脱ぐ位の事をやっても良いはずである。
紙面の都合で国別の解説はこの辺で打ち切るが、後は読者の方が個別に考えられたら良いと思う。結構、思っていたのとは違う数字に出くわし驚いたり、その背景を考えてみて自分なりに納得する様な作業は大事だと思う。
最後に、政府並びに民主党には日本の貿易実態を理解した上で、国益に配慮した外交とTPP参加に向けての戦略的アプローチを是非熟慮願いたい。
山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役