「金融システムの崩壊を防ぐために〇〇を救済する」の意味

藤沢 数希

「金融システムの崩壊を防ぐために〇〇(ここには国とか金融機関の名前が入る)を救済する」
最近、様々な所で目にする文言だ。しかし、この文章の具体的な意味を理解している国民がどれほどいるのだろうか。そこで、今回はその意味するところを説明することにする。


まず、金融システムという言葉が非常に曖昧である。また、救済するとはいったい何を意味しているのだろうか。「金融システムの崩壊」というのは、だいたい銀行の連鎖倒産のことである。そして、「救済」というのは、直接的に税金を注入する場合もあれば、政府の信用だけを使ってサポートする場合もある。ここでもまた注入というわかりづらい言葉が出てくるのだが、注入というのは具体的には、つぶれそうで誰も買い手がいない会社の株を政府が税金で買ったり、そういった会社に政府がお金を貸すことである。会社ではなく国が対象のときは、国債を中央銀行がお金を刷って買い支えたりする。中央銀行がインフレを起こさずにお金を刷れるのは、要するに国には徴税権があり、徴税権による信用に支えられているからである。こういった信用は広義の税金といえよう。このように潰れそうな会社や国を税金で支えることにより、金融システムの崩壊を防ぐのである。そして、前述したように、ほとんどの場合、金融システムの崩壊とは銀行の連鎖倒産のことを指す。「金融システムの崩壊を防ぐために〇〇を救済する」というのは、要するに税金で銀行がつぶれないようにする、という意味だったのだ。

たとえば、ギリシャの財政破綻を考えてみよう。ギリシャの財政破綻というが、これは要するにギリシャ政府が借りた金を踏み倒そうとしていることだ。ギリシャ国債の発行残高は3000億ユーロで、せいざい30兆円ほどである。いくらなんでも全てが踏み倒されるわけではないので、3分の1が焦げ付くとしてせいぜい10兆円程度の話である。ドイツのGDPが250兆円、フランスのGDPが200兆円程度なので、この10兆円程度の財政支援など、その気になれば簡単なことだろう。しかし、ギリシャ国債のデフォルトがなぜそれほど困ったことになるかというと、ドイツやフランスの大きな銀行がギリシャ国債を大量に保有しているからだ。10兆円のデフォルトというには大国にとっては、それほどの金額ではないが、いくつかの民間銀行を吹き飛ばすには十分な金額ではある。それゆえに、ドイツやフランスなどが中心となり、ギリシャが派手に借金を踏み倒さいように、財政支援をしているのである。

ここで当然だが大きな問題に直面する。そういった銀行は、ギリシャがこうなるというリスクを承知で、ギリシャ国債などの資産を保有していたのだ。銀行の経営者は儲かった時は自らの懐にたっぷりとボーナスを入れていたのに、損してつぶれそうになると税金で助けられる、などということが許さえるのか。これはまっとうな国民感情であり、それゆえにこういった救済策は政治的には極めて不人気である。それではドイツやフランスがギリシャを救済しないとどうなるのか。ギリシャ国債を大量に保有する自国の銀行が破綻し、金融機関同士はさまざまな金融商品の契約により互いに複雑に絡まり合っているので、他の銀行も連鎖倒産するリスクが高まる。国民の貯金を集め、決済機能を提供し、多くの企業に融資している銀行が連鎖破綻すれば、そのコストは極めて高くつく。要するに大きな銀行がつぶれそうだと、なりふりかまわず税金でそれを防ぐ他ないのだ。

Too Big to Fail(大きすぎてつぶせない)な銀行というのは、なかなか厄介な問題なのである。

参考資料
ユーロ・リスク、白井さゆり
なぜ金融機関は時に税金で救済しなければいけないが、事業会社を救済するのはよくないのか? 金融日記