レプラコーンの黄金

春になると、レプラコーンがどこからともなく湧いて出てくる。緑の妖精だ。ティンカーベルだって、緑色の葉っぱ服を着ているから、その一族なのだろうが、よく知られているレプラコーンは、緑の帽子、緑の服を着た小さな髭モジャのおやじたち。クローバーが大好きで、学校や公園に小さな緑色の足跡を残す。古い教会などの建物の装飾のあちこちに、ツル草と一体になった葉っぱ人間たちが隠れているが、どうやら連中は、人間より前の古い地下の種族らしい。


幸いにもレプラコーンを地上で見かけることがあったら、ぜひにもつかまえたい。というのも、やつらは、しこたま地下の黄金を貯め込んでいるから。そして、つかまったら、それを差し出す決まりになっている。それで、冬も終わりに近づくと、だれもがレプラコーンをとらえようと、いろいろなワナを工夫する。だが、連中だって、バカじゃない。そうかんたんに、見つかったり、つかまったりするものか。

が、あっ、と思った瞬間、レプラコーンは地べたに押さえつけられた。うわぁ! さあ、つかまえたぞ、黄金をよこせ。寒風吹きすさぶアイルランドの荒野。あたりは石だらけ。青年は窶れ、痩せこけ、目は血走っている。おれはこんな貧乏村はもう嫌だ、今年こそどこか大きな町へ出て行きたいんだ、だが、それにはおまえの黄金に頼るしかない! そうかってに叫びながら、レプラコーンの服を力づくでまさぐる。袋があった。これか? だが、その中は、なにかの種ばかり。

ちくしょう、黄金はどこなんだ? 待て待て、そんなもの、持って歩いているわけがあるか、ものすごい量なんだぞ。そうか、そうなのか。ああ、だが、こうなっては仕方あるまい、おまえにやろう。どこにある? じつは大きな石の下に隠した。どの石だ? あー、このすぐ近くなんだが、さて。あたりを見渡せば、そこら中が石だらけ。青年はレプラコーンをじっと見つめた。よし、おれはおまえを信じよう、これから石を掘ってみる。で、私は、もう行っていいのか? ああ、かまわん。レプラコーンも、青年を見つめた。本気のようだ。レプラコーンは、去り際に言った。ついでなんだが、この種の袋もやろう、石をどけたら、そこにこいつを撒くといい、旗竿のように長い穂が出て、踏んでも折れないから、同じところを二度探すムダが防げるぞ。

その後、レプラコーンがどこに消えたのか、だれも知らない。一方、青年は、すぐに道具を取ってくると、あたりでいちばん大きな石を掘って除けた。が、無い。これじゃないのか。そこにバッと種を撒くと、また次の大きな石に向かった。だが、これも違う。その次に大きな石はどれだ? 次は? 次は? どこにも無い。ちくしょう、あいつはウソをついたのか? いやいや、レプラコーンは小さいぞ、やつからすれば、どんな石だって大きいじゃないか。ぶつぶつと独りごとを言いながら、また次の石へ。

それから、かれこれもう半年。そこら中、青年が掘った目印の、背の丈もある長い穂だらけ。だが、青年は、まだ石を除け続けている。季節は変わり、春も過ぎ、もはや汗ばむ陽気だ。あの痩せこけた青年は、すっかり逞しくなり、クワを握る腕も太くなった。顔は日に焼け、まなざしもおだやかに、遠くを見つめる。ああ、結局、町へは出て行きそこなった。どうやら、やっぱりおれはあいつに騙されたらしいな。だが、彼の背後では、真っ青な空の下、一面、たわわに実った黄金のライ麦が初夏の風にそよいでいた。

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰博士
(大阪芸術大学哲学教授、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン)