NHKは低線量被曝について正しい番組を放送せよ

2012年02月01日 12:55

私が先月のブログ記事で批判した「低線量被ばく 揺らぐ国際基準」について、専門家112名の抗議文がNHKに提出された。内容は、私が続報で指摘した事実とほぼ同じだ。

  • ICRPのクレメンス科学事務局長のインタビューで「DDREFによる補正」を字幕で「リスクを半分にした」とすり替えている。

  • 「線量が半分になった」という表現が根拠不明。
  • ICRPは1990年の60号勧告で基準線量を規制強化したのに、この番組は「原子力産業の圧力で緩和した」と逆の話にしている。


これを東京新聞のように「原発推進団体が抗議」と報じるのは問題を歪曲している。ここに名を連ねているのが原子力推進派の人々であることは事実だが、彼らが問題にしているのはNHKの事実誤認(あるいは捏造)である。特にICRPが規制を緩和したというのは致命的な事実誤認であり、多くの視聴者に線量基準について誤った認識を抱かせるものだ。

ニコ生でも話したように、原発の是非と放射線の健康被害は別の問題である。原発に反対の松田裕之氏も「現在の過剰防護は二次災害を拡大する」と警告している。被災地の線量は、どんな調査でも年間数mSv程度であり、健康被害を及ぼすことは考えられない。このような放射線についての過剰報道が被災者の帰宅をさまたげ、多くの市町村が瓦礫の受け入れを拒否するなど、復興を阻害している。

原発の是非については意見がわかれているが、福島第一事故の健康被害がほとんどないということについては専門家の意見は一致している。ところが放射線のリスクを誇張することが「正義」と混同され、科学者を「御用学者」とか「人殺し」などと罵倒する人々が多いため、科学者が萎縮している。この抗議文は、ほぼ初めての反論である。

私も総務省の電波政策をめぐっては御用学者と闘ってきたが、研究会などで私的に話すと「本当はあなたのいう通りだ」といわれることが多い。ところが、この問題については御用学者といわれた人々は「なぜメディアはわかってくれないのか」と当惑している。科学的事実をメディアが理解していない(あるいは悲観的な情報しか見ようとしない)ことが、歪んだ報道の原因である。

今回の原発事故では、朝日新聞や自称ジャーナリストが放射能デマを流すのに対して、NHKの冷静な報道が光っていた。この番組は深夜の特別枠だから、報道局の目が届かなかったのだろう。この抗議文もいうように、NHKは低線量被曝について正確な情報を提供する番組を放送してはどうだろうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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