改めて「初音ミク」 --- 中村伊知哉

2012年03月08日 09:14

ここにきて初音ミクに関する取材をよく受けます。

もう5年も前に誕生した音声合成DTMソフトが3万6000曲の作品を生み出し、11万作品の動画がアップされ、再生回数が数百万回にのぼるという、世界最大の持ち歌を誇る歌手に育ちました。

今年1月、ロンドン五輪のオープニングを歌って欲しいアーティスト投票で、並みいるアーティストを抑えて1位を獲得、それも日本ではなく海外のサイトからの投票が多かったという。アメリカで初音ミクのライブを開くと、ほとんどの客が日本語でミクの曲を合唱するという。

政府はクールジャパンの旗を振り、コンテンツの海外展開に躍起だが、それをミクは1人でやっちゃったわけです。

それはなぜか。初音ミクのパワー源は何か。取材の多くはそれです。


ぼくは「技術、ポップ、みんな」の3点、と答えています。

まず、ボーカロイドという「技術」。誰もが専属歌手を持つことができるようにした技術。作詞・作曲から演奏への壁を取り除き、一流のプロも使う歌唱クオリティを開放したわけです。

そして、カワイイ「ポップ」なキャラクターという身体性を与えた映像表現。16歳、158cm、42kg、これぞ萌え、という要素を盛り込んだコンテンツです。東浩紀さんのデータベース消費ですね。

ものづくり力=技術と、表現力=コンテンツという日本の2大強みをドッキングしたところにミクは実像を結んだのです。

さらに、「みんな」が作る産業文化の形成。ニコ動やYouTubeといったソーシャルメディアで二次創作、三次創作、n次創作と曲や映像の連鎖が広がり、新しいコンテンツが派生していった。みくみくにしてあげたり、メルトしたり、はちゅねミクが生まれたり、ネギ好きという設定が加わったり。

作詞・作曲する人もいれば、映像を作る、歌う、演奏する、コスプレ、踊る、さまざまな様式での参加が許され、奨励される。ユーザによる創作、共有、拡散の文化です。公式ソング、公式アニメ的な囲い込みではなく、外へ外へと増殖していく。

オープンソースです。ソフトウェアのオープンソースは、技術の増殖でした。初音ミクはコンテンツのオープンソース。文化の増殖です。誰もがマンガを落書きし、誰もがタテ笛を吹くことができる「みんなの表現力」がクールジャパンの源。初音ミクの産業文化が日本から生まれたのは必然です。

それはすんなりを海を渡りました。J-Popとアニメの組み合わせが国境を越え、伝搬力、発信力、浸透力を発揮しました。初音ミクの発声技術は日本語を前提にしているのですが、それがかえって日本語の魅力を発信するのに役立っています。

いまやミクは世界的アイドル。コンテンツビジネスとしてユーザがCDやゲームを売るというチャンスも広がります。これまでミクはPC+ネットベースでしたが、これから世界的にスマホやタブレットが普及します。ソーシャルサービスの利用も本格化するのはこれからです。世界市場でのコンテンツビジネスはこれからとみてよいでしょう。

それ以上に「リアル」の市場が期待できます。既にオモチャやお菓子などのグッズが販売されています。さらに、ライブやコスプレイベントを展開するなど、ユーザの「もりあがり」をビジネスにしていく路線です。音楽業界が注力している方向ですね。

クリプトンフューチャーメディア社の拠点、札幌は観光の目玉として大々的に担いでいます。コンビニのディスプレイに大きく登場させたり、フィギュアやおにぎりや衣装を売り出したり、路面電車や雪まつりのキャラクターとして採用したり、カードや記念切手を発行したり。

ユーザみんなが自分で作品を作る、という新しいビジネス。みんなで1人のキャラクターを使って作品や商品を生むというのは、これから発展が見込めるビジネスモデルです。

課題もあります。次々とユーザが作り、ビジネスが生まれていく、その権利や処理ルールをどうするのか。さまざまな企業が関連してくることにより、係争も発生するかもしれません。

さらに大きな課題は、第二、第三の初音ミクをどう生んでいくのか、長期的な環境の整備です。たまたま生まれ、みんなで育てた初音ミク。こうしたイノベーティブなよい子を、もっともっと生み続けたい。そのメカニズムを国内に内包したいと思います。

miku1

※イラストも筆者

編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年2月8日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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