放射線欠乏のリスク --- 神 貞介

アゴラ編集部

1. とあるリスクの放射線

私にはまったく理解できないが、次のような考え方をする人がいるらしい:

たとえ科学的根拠がなくても、リスクがあるかもしれないなら、全力で回避するのが当然である。

もしそう考えるなら放射線欠乏リスクを全力で回避すべきである。


日本の自然放射線は年間約1ミリシーベルトあるが、本当は欠乏状態であり、日本人は知らず知らずのうちに健康被害を受けているのかもしれない。

福島の野菜を食べても欠乏を補うことは全くできない。たとえ暫定基準値を超える野菜を食べたとしても、そんなものは自然放射線に比べれば誤差の範囲内である。リスクを避ける役には全く立たない。

同じく、家の近くでガレキを処理した程度では役に立たない。自然放射線に比べればあまりに少なすぎる。

実は自然放射線は地域によってかなり違い、たとえば大阪は東京よりずっと多い。東京から大阪に引っ越した人は、放射線欠乏を少し補うことができたのである。

もっと確実なのは外国に移住することである。世界平均は年間約2ミリシーベルト。日本の約2倍の放射線を浴びられるし、地域によってはもっと多い。上空は放射線が多いので、飛行機内の放射線も有用である。

2. 放射線欠乏リスクの科学的根拠

徹底的に放射線を減らした環境でゾウリムシを育てると、増殖が低下したという実験がある。国内で探してみたら、2005年の大阪府立大学での追試が見つかった(アクセスに耐えられるか不明なのでリンクは貼らない)。海外での実験結果は再現できなかったそうだが、増殖の低下が観測され、次のような見方を示している。

生物は極低レベルの放射線に被曝しながら生きており、その放射線が刺激となって正常な遺伝子発現系が維持されているのかもしれない。

つまり放射線欠乏により、遺伝子の働きが正常でなくなる可能性がある。

一方人体で、放射線を余計に浴びて健康になった事件がある。最近大西宏さんが紹介したので詳しいことは書かないが、鉄骨にコバルト60が混入し、住人がその放射線を浴びたところ、ガンの発生率が激減したという事件である。これはホルミシス効果の1つとされている。

ホルミシス効果とは低量放射線は健康によいという説である。しかしよく考えると、放射線が減少すると健康に有害-例えばガンが増加する-という裏の顔を持っている。

3. 結論

放射線欠乏は人体に有害かもしれないが、気にする必要はない、と断言しよう。

ホルミシス効果はいずれ実証されるだろうと予想しているが、今は仮説の段階で、証明されたわけではない。つまり、今のところ科学的な定説ではない。

でも放射線欠乏を危険だと思う人はいるだろう。子供を持つ母親に「放射線欠乏のせいで子供がガンになることはないと保証できるのか!」と問われたら、保証はできないと答えるしかない。

ではなぜ気にする必要がないのか。

世界中の学者が調査・研究しているが、ホルミシス効果を証明することも否定することもできていないからである。つまり、低量放射線の影響があるとしてもほんのわずかであり、その観測が難しいことだけは確実にわかっているのである。

世の中には高い危険性が確かめられているものがたくさんあり、それを避けるのが先である。いくら調べても危険性があるか無いかわからないものを気にする必要はないのである。

神 貞介
数学者