稟議書にみる日本的経営 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

稟議書はある程度の会社の規模であれば必ずお見かけする業務の意思確認の書類であります。この稟議制度は日本的経営の特徴でもあります。私が建設会社勤務時代には業務柄、稟議の起案が多く、取締役会付議案件を扱うこともしばしばでした。
今日は日本の会社の意思決定の基本である稟議制度について考えてみましょう。

以下私の経験。


案件1 超特急(本日中)に決裁が必要。決裁者は社長、要回覧部署は総務、財務、営業、経理、経営企画。

このような場合、起案、所属部長印を貰ったあと、私が各回覧部署の部長だけ持ち回り回覧。部長がいなければ在席者のトップから同意印を貰うことで回覧時間は約2時間。その後、所属部長が社長のところに滑り込んで決裁。以上で決裁まで大体、3時間。

案件2 取締役会付議案件 会長関連案件。決裁者は社長。要回覧部署は主要部署全部。

起案後、所属部長が先に会長の了承印、そして、社長の決裁印を取り付ける。それから各部署に持ち回り回覧。しかし、このやり方は回覧部署にとても嫌がれました。

案件3 決裁が通りにくい稟議 

回覧部署とバーター取引。「これお願いします。」「ダメだね。」「では、先日の例の案件、あれどうにかしますから。」「しょうがないね。今回だけだよ。」

私の本社勤務時代は稟議書に明け暮れました。そしてそれが正しいと思い続けていましたし今でも社内の意思疎通を図るには日本人に向いていると思います。しかし、この制度は私のように社内の上層部とツーカーで話しながら「社内ディール」が出来ればよいのですが、普通はそういうわけにはいきません。

秘書時代、稟議書を見た会長の呟き。起案日から会長の所に廻ってきた日までを数え、「べたべた赤いハンコを押すのに2週間も無駄にした」。或いは「重要案件はトップダウン!」。更には「課長や課員のハンコは要らない。部長だけでよい。部長が責任を取れないなら部長の資格なし」。

日本の経営意思の決定は合議制。ところが部署間の会議となると双方の主張がぶつかりかなり紛糾することも予想されます。欧米の会社では日本の経営意思の決定が遅いことをいつも不満に思っています。「お宅の会社の本件に対する決定権限者は誰だ?」合議制であるから故に誰が責任者かも不明瞭になりがちです。

ならば起案部署が全責任をとり、回覧部署はあくまでも参考回覧とするのも手でしょう。大型案件は役員会にかかりますから一定の歯止めが発生します。起案部署が責任を負うならば決裁基準も緩和することでアメとムチの原理が導入されます。結果としてそこに出来るのは早い意思決定、責任所在の明白化であります。

日本企業の弱さは責任が誰にあるのかわからないところに本質的な問題点があるような気がします。「会社で決めたこと」ではなく、「わが部署で決めたこと」としてビジネスをすれば課員のマインドは大きく変わるのではないでしょうか?

やる気というのは案外、こんなところに隠されていると思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年4月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。