出版社に隣接権は必要か?

山田 肇

連休前4月28日の日本経済新聞電子版に『「電子書籍」普及へ著作権法改正案を初公表、作家・出版社・国会議員ら』という記事が掲載されていた。電子書籍を普及するために、出版社に著作隣接権を付与しようというもので、今後、議員立法を目指すという。

公益財団法人文字・活字文化推進機構の下に組織された「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」に超党派議員が集まり、著作権法改正案のたたき台を作成したそうだ。同機構のサイトで公開されているが、「複製権、送信可能化権、譲渡権、貸与権を出版社が25年間専有する」という案になっている。

勉強会は「書籍および電子書籍の流通促進と出版文化発展のため」とうたっているが、内容は出版業界の長年の願望を表現したものに過ぎない。古くは1985年9月25日の日経産業新聞に『版面権――権利保障されぬ出版者、確立へ文化庁が動き出す』という記事がある。記事の冒頭は次の通りである。

複写機による本の大量コピーから、編集者や、出版者の権利を守ろうとする動きが活発化してきた。作家などの著作者が著作権法でその権利が守られているのに対し、編集者や出版社は権利がまったくと言ってよいほど法律的に保護されていないことから、新たに出版者に対し「版面権」としてその権利を認めようというものだ。

そして今、勉強会は「ネット環境の中、海賊版の横行など著作者の権利が大きく侵害される状況が起きており、出版社においても十分な対応措置が取れていない現状がある。」という。27年前とまったく同じだ。出版社は20年以前から著作隣接権が欲しくて仕方がなかった。かつては複写機を理由にした。今は自炊や海賊版を理由にしている。そのために中川正春前文部科学大臣を座長に担いで、勉強会を組織したわけだ。

著作権は文化の発展を目的としたものだ。そのために、著作者と利用者それぞれの権利のバランスを図ろうというのが、著作権法の目的である。どちらか一方の権利だけが強調されるのは好ましくない。ましてや、著作者に隣接して著作を助力した者の権利を拡大するには慎重な検討が必要である。議員立法でスキップするのは適切ではない。

違法アップロードコンテンツをダウンロードした者に罰則を適用しようという議員立法が国会で審議されようとしている。これにも多くの問題がある。情報通信政策フォーラム(ICPF)とインターネットユーザー協会(MIAU)が協力して、金曜日夜に、ニコニコ生放送でこの問題を取り上げることにした。

山田肇 -東洋大学経済学部-