書評:幸せな小国オランダ --- 中村 伊知哉

アゴラ編集部

紺野登さんの「幸せな小国オランダの智慧」を読みました。

3/11の震災後、駐日オランダ大使館は現場で合理的な判断を自ら行い避難しなかったといいます。現場+合理性が気質の一つだそうです。

17世紀に黄金時代を迎えながら、イギリス、フランス、ドイツの台頭、それらとの敗戦、そしてアメリカの時代を迎え、国際的地位が下がる一方、いまなお輝きを保つ。その生き様を描いています。

ピンときた点、いくつかメモします。


幸せな小国オランダの智慧 (PHP新書)


●ホフステードの「男性的文化指標」によれば、世界50国中最も男性的なのが日本だという。これは最初「?」だったが、どうやら男性的にたくましいということではなく、「現実主義、強者への共感、失敗否定」など、男性に象徴される気質を社会が色濃く持っているということなのですね。なんとなくわかる。

●1953年の洪水後に計画されたダム事業は「1万年に1度」の洪水を想定して設計された。日本の建築基準法が想定する暴風基準は500年に1度だという。オランダは自然と共存することを覚悟しているが、日本は覚悟をしていないということです。「安心こそ安全の敵。」そのとおりです。

●「16~19世紀初頭まで中国と印度は世界のGDPの2/3を占めていた。」「米日が台頭した19~20世紀が特異という見方もできる。」中印の再台頭に日本はおののいているが、いわば回帰であり、国土・人口からみて必然なのかもしれません。オランダが小国になっていく過程で、苦しみながら得たのはどんな心の持ちようだったのでしょう。

●1974年CFクライフのオランダ代表がみせたトータルフットボールは、オランダ発のイノベーション。それが現在のFCバルセロナに受け継がれているという。

● オランダを代表する企業、ユニリーバ、KLMオランダ航空、ING、ロイヤル・ダッチ・シェル、フィリップス、ハイネケン・・。ありますねぇ、広範囲にわたって。

● オランダの農産物、輸出676億ドル、輸入397億ドル。純輸出279億ドルは世界最大。九州ほどの面積で世界最大の農業ビジネス国だということ。これは知りませんでした。

●17世紀の欧州の書物の過半数は、オランダで印刷・出版されたという。オランダ系ユダヤ人のピーター・ドラッカーのドラッカーはオランダ語で印刷人/プリンターを意味する。アナログのメディアを支えていたんですね・・。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年6月7日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。