「年間1mSv」はなぜ決まったのか

2012年09月06日 09:31

さっきの記事について私が「2次災害のほとんどは過剰避難、特に医療の失敗が原因だ」と書いたら、「情報不足が根本的な原因ではないか」という質問があったので、経緯を簡単に復習しておこう。


震災直後の対応について、SPEEDIの情報を開示しなかったという話が騒がれたが、そんなことは大した問題ではない。最大の失敗は年間1mSvを基準にして避難指示したことである。ICRP111号勧告では、参考レベルを次の3つに分類している。

  • 緊急被曝状況:好ましくない結果を避けたり減らしたりするために緊急の対策を必要とする状況(年間20~100mSv)

  • 現存被曝状況:緊急事態の後の長期的被曝状況(1~20mSv)
  • 計画被曝状況:線源の意図的な導入と運用をともなう状況(1mSv以下)

このうち事故直後の状況は緊急被曝状況なので、最大100mSvまで許容できる。したがって病人などは拙速に動かさないで、線量の高いところから順を追って避難すべきだった。次の図でもわかるように、年間100mSvを上回る地域は原発の周辺の半径数百mだけだったからだ(クリックして拡大)。


政府も最初は20mSvを基準にして避難させたが、内閣府参与の小佐古敏荘氏がこれに反対し、4月29日に涙の記者会見を行なって辞任したことから「20mSvは非人道的だ」という空気が広がり、自治体は1mSvを基準に避難・除染を行なうようになった。それに便乗して武田邦彦氏などが「1mSv以上は違法だ」というデマを流したが、ICRP勧告は法的拘束力のない参考レベルである。

きのうの記事の図を見ればわかるように、年間1mSvで放射線障害が出ることはありえない。それは平時の放射線施設の管理基準であり、これを緊急被曝状況に適用して大混乱を引き起こした民主党政権が、600人以上の死者と5兆円以上の損害をもたらしたのだ。福島事故の被害のほとんどはこうした人災と風評被害であり、「原発事故は16万人の避難者を出す大災害だ」とか「除染で75兆円の損害が出る」とかいう話は誤った基準にもとづく幻想である。

追記:斗ヶ沢秀俊氏からコメントをいただいたが、政府は公式には1mSvを避難指示の基準とはしていない。事故の直後は半径20kmとか30kmというアバウトな基準で退避させ、その後も1mSvという基準を公式には決めていない。しかし小佐古事件で自治体が1mSvで避難・除染を行なうようになり、政府もそれを止められなくなった。除染も公式の基準は1mSvではないが、事実上1mSvまで除染しないと帰宅できない。このような基準の曖昧な運用が混乱を増幅している。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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