学歴から職歴へ

2012年09月09日 10:43

朝日新聞の伝える所では、ヨーカ堂、正社員を半減へ 3年後めど、パート9割にとの事である。

セブン&アイ・ホールディングスは、傘下のスーパー「イトーヨーカ堂」の業績が低迷しているため、正社員8600人を3年後をめどに半分に減らす方針を決めた。かわりにパートを6800人増やし、1店あたりの従業員に占めるパートの割合を今の8割弱から9割に高める。

一方、パートは3万人弱から3万6千人以上に増やし、給与制度も改善する。調理師免許などの技能を持つ人の給与を3倍ほどに増やしたり、パートのままで役員や店長に起用したりして、優秀な人材を確保するという。


これこそが、正に待ちに待たれた人事施策と諸手を挙げて賛同したい。経済の停滞する日本に取っての喫緊課題は、労働生産性の画期的な向上を図りつつ、社会の落ちこぼれ(失業)を防ぐ事と考えるからである。

従来、大学時代の就活の成功不成功に依り、正規社員(勝ち組)、非正規社員(負け組)そして失業者(社会のお荷物)に三分割され、敗者復活の道は限りなく細かった。

結果、非正規社員は能力や実績が正社員に比べ遜色が無くても待遇面で随分と差別されて来た。それに依り、潜在能力が開発されず甚大な社会的損失になって来た筈である。

一方、失業者は典型的な落ちこぼれであり、社会的負荷である事が問題となるだけではなく、社会不安の因子となり、政府が対策を誤れば社会的ロスは甚大なものとなる。一昨日のアゴラ記事、シンガポールと日本の明暗を別けたもので説明を試みた、Inclusive Growthの肝とする所である。

技能を持つパートの給料を三倍にしたり、或いは、パートを店長や更には役員に迄登用する事で、従来負け組とされて来た非正規雇用の立場の人間が活性化するのは必然である。

一方、正社員を4,300人削減し、パートを6,800人増員との話故、差し引き2,500人の新規雇用創出となる。失業者が2,500人減る勘定である。日本企業の多くが追随すれば失業問題のかなりの改善が期待出来るのではないだろうか?

今回のセブン&アイ・ホールディングスの新規施策が巧く行けば、他の企業も当然追随する事になる。この事は、一体世の中に如何なる変化を生じさせる事になるのであろうか?

先ず第一は、正社員の身に降りかかる大きな変化である。正社員が正社員と言う特権を剥奪されるのは、明治維新で武士が俸禄を取り上げられたのに似ている。要は、今後は正社員も相当働かなければならないと言う事実である。

イトーヨーカ堂の正社員の多くはセブン―イレブンに転職し店長に就任するとの記事内容である。店長として、小なりと言えども経営に責任を負う訳である。従来のイトーヨーカ堂正社員としての生活は一変するのではないか?

店長として求められるのは予算の達成であろう。予算の中身は「売り上げ」と「利益」と予測される。両方が達成されれば勿論店長として合格である。しかしながら、他店との競合もありそう簡単に行くとも思えない。

売り上げを伸ばす為には、「商品の品揃え」、「商品の陳列」、「店内の導線」、「アルバイトの顧客対応」、そして「店の雰囲気」に店長は絶えず気を配らねばならない。

仮に売り上げが未達となれば、利益だけでも達成せねばならない。その為に経費削減は避けては通れない。早い話、アルバイトを減らしその分店長の頑張りでカバーする事になる。一日12時間労働で一か月休みなしと言うのも充分あり得る話である。

これだけやっても予算が達成出来ねば店長から平の従業員に格下げされるのではないか?この場合はアルバイトと同レベルの賃金体系が適用されるのではないか?

何れにしてもイトーヨーカ堂時代の年収を確保しようとすれば予算を達成するしか手段はなく、可也の努力が必要となる事は確かである。

大学生の就活にも随分とインパクトを与えそうである。正規雇用と非正規雇用の待遇に大差が無く、給与や昇進が職場での業績連動となれば無理に正社員になる必要がなくなる。

現在の様に大学三年生からの就活で時間と労力を浪費することなく、今少し落ち着いて大学での勉強に集中出来る様になるのではないか?

社会に於ける大学の位置付けも大きく変わるであろう。そもそも、東大の様な一部のエリート大学を除けば大学の価値は、生徒の名前を印刷した卒業証書を提供してくれる事位である。

露骨に言えば、入学金と授業料納付の見返りとして「大卒」の学歴を授与してくれる事に大学の唯一の価値がある訳だ。

しかしながら、非正規雇用の労働市場で大卒の肩書が珍重されるとはとても思えない。重視されるのは、その人物が職場で役に立つかどうかに決まっている。

そして、その判断材料は本人の過去の「職務履歴」であったり、本人が身に付け、活用している「資格」と言う事になる。その結果、大学の四年間を、時間と金の浪費と観る風潮が今後増々高まると予測する。

大学受験生の大学への関与も変わらざるを得ない。一流大学に入ってしまえば一生安泰と言うのは、流石に高度成長時代の意識の残差としても、今尚日本社会がこれを引きずっているのは否定出来ない。

しかしながら、時代の流れを読める若者は一流大学の入試に合格して「頭の良さ」を証明する事に成功したら、大学は最早用済みとして入学金を支払い入学手続きの後、さっさと休学して職探しをするのではと思う。

大学に金を払って学ぶ中身よりも、金を稼ぐ為に勉強する中身の方が遥かにレベルが高く、密度が濃いと理解している訳である。

繰り返しとなるが、今回のイトーヨーカ堂の改革は「学歴」や「学歴」に依って獲得に成功した「正社員」と言う地位が価値を喪失し、代って個人の職務履歴と資格に裏付けられた「能力」が重視される時代の到来を予告するものと受け取っている。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役

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