オンライン大学というひとつの革命について

松岡 祐紀

カーンアカデミーをご存知だろうか?

もともとヘッジファンドのアナリストをしていたカーン氏がいとこたちに勉強を教えるのに、ユーチューブを使って教えたところ、「ユーチューブのほうが、実際に教えてもらうよりいい!」と言われたのがきっかけに始まったオンライン学習サイトだ。(カーン氏がTEDで行った素晴らしい講演の動画はこちらから)


動画だと好きなところで再生・停止が出来るし、分からないところは何度も繰り返し聞くことが出来る。考えてみれば、当然のことだ。

このカーン氏のTEDの講演会場にいて、衝撃を受けたのがドイツ人Thrun氏だ。彼は当時はスタンフォード人工知能研究所の所長であり、グーグルが開発した自動運転カーに関して同会場で講演もしていた。(グーグルXというグーグルの開発機密機関の所長でもあった)

そんな彼がすべての地位を捨てて、教育の革命に賭けて、オンライン大学の「Udacity」を始めた。「これはプロジェクトではなく、自分の使命なんだ」と英国ガーディアン紙のインタビューにも答えている。

カーンアカデミーに感動した彼は、早速スタンフォード大学で自分が受け持つ人口知能のコースをオンラインで公開することにした。せいぜい数千人集まればいいと思っていたらしいが、コースが始まる頃には16万人も集めることが出来た。リアルのコースには200人が集まったが、もうそんな少人数を教えることには飽き足らなくなり、オンライン大学を立ち上げるに至ったわけだ。

そして、Thrun氏のスタンフォード大学での同僚だった二人の教授は、スタンフォード大学やペンシルベニア大学など一流の大学と提携して、Courseraというオンライン大学を立ち上げた。今年立ち上がったばかりだが、すでに180万人の生徒を世界中から集め、33大学と提携している。

このようなオンライン大学にはグーグルなどの大企業も積極的に出資し、成績が優秀だった生徒を実際に採用している。企業側に取ってみれば、優秀な生徒を費用もかけずに世界中から集めることが出来、また学生の分母も当然大きくなるので、「選びぬかれた最優秀なエリート」を青田買い出来るメリットがある。

大学のメリットとしては、現在はこれらのサイトは課金は行なっていないが、将来的に低額な課金を行うことで、莫大な収入を得ることが可能となる。(教室に入る人数は数百人が限界だが、オンライン上ではその数は無制限だ)

そして、オンライン大学の通う生徒にとってみれば、今のところ無料で世界最高峰の教育を受けることが出来るし、フォーラムなどを通じて志を同じくする世界中の人たちとも知り合うことが出来る。さらにそこで優秀な成績を収まれば、グーグルなどの世界トップの企業にも就職の道が開かれるというまさに言うことなしの大学だ。(ほかにもハーバード大学やMITと提携しているオンライン大学「edx」などがある)

無料のオンライン学習コースが正規に“学歴”として認定へ

上記の記事によると、Courseraは正規の大学として認められる可能性が高く、それによってまさに教育界の革命を起こそうとしている。ただ、最終的には学歴というものは有名無実なものとなり、企業はそんなものよりも、より能力が高い学生をリクルートするために、あの手この手を尽くすだろう。

オンラインで学習するということは学習履歴のみならず、学習フォーラムなどの発言もすべて記録されることになる。言うなれば、学生の思考回路や社交性までも可視化できる訳だ。そうなれば、有名大学卒の肩書きよりも、より信頼のおけるデータが揃ったオンライン大学の卒業生のほうが企業の就職には有利になる可能性がある。

これから10年後、世界中の大学はもしかしたらすべての授業はオンラインで行われるようになり、インターネットが使える世界中の人々に教育のチャンスが開かれているかもしれない。

教育の不平等が世界中の混乱を巻き起こし、この世界を混迷極めるものとしているといって過言ではないが、オンライン大学がその理想的なソリューションとなる可能性もある。大卒という資格を得たいがために大学に行くのではなく、本当に何かを真剣に学びたい人たちが世界中からこれらのオンライン大学に集まり、切磋琢磨して学んでいくのだ。

そうなってくると、大学という場所はその居住地をインターネット上に移し、学生たちはFACEBOOKなどで勝手に「スタンフォード大学で人口知能を習っているやつ集まれ」などと各地でイベントが開催され、ゆるいコミュニティが形成されていくのだろう。

10年後、20年後、日本の子どもたちが「昔さ、日本に受験戦争ってものがあったらしいよ。なんか実際なんの役にも立たない知識を詰め込んで、日本でしか名が通っていない大学に合格するために必死こいていたんだって」「マジ!ありえなくない!?」などと話し合っているかもしれない。

すでに生活のインフラとなっているグーグルですら、今年で14周年だ。オンライン大学元年の今年から十数年経ったら、今の自分たちが想像も出来ないような変化が社会に生まれているはずだ。それが今から楽しみで仕方がないし、自分もなんとかそれに寄与出来たらと思っている。

株式会社ワンズワード 松岡 祐紀
ブログ