「石あたま判決」を下した国民審査対象の裁判官(その2)

城所 岩生

(その1)で、まねきTV、ロクラクII両判決が石あたま判決とする第2の理由として、クラウド時代に逆行する判決だったため、筆者が判決直後、「まねきTV事件」最高裁判決でクラウドも国内勢全滅の検索エンジンの二の舞か?で指摘した状況が、クラウドTVサービスでも顕在化しつつあることをあげた。同じ現象が音楽クラウド・サービスでも顕在化しつつあることが、石あたま判決とする第3の理由である。

プレイヤーは、(その1)で紹介したボクシーTV、以前紹介したエリオディッシュ・ネットワークと異なり、日本にも馴染みのあるアマゾンとグーグルである。両社ともエリオ、ディッシュ・ネットワーク同様、ケーブルビジョン判決に依拠してサービスをはじめた。


昨年3月、アマゾンは楽曲をクラウドにあずけて、いつでもどこでも種々の端末できけるサービス、クラウド・プレイヤーを発表した。しかし、音楽会社とクラウド・サービス用の新たなライセンス契約を締結することはしなかった。ユーザがすでに保有している楽曲をクラウドにあずけて、新たにライセンス契約を結ぶ必要はないというのがその理由だった。

グーグルも昨年5月に音楽クラウド・サービス、グーグル・ミュージックをアマゾン方式で提供すると発表した。一方、アップルは新たなライセンス契約を締結して、iCloud サービスをはじめた。

なぜアマゾンやグーグルは音楽業界とクラウド・サービスのための新たなライセンス契約を締結せずに提供したか?ワイヤード誌によれば、その答えはケーブルビジョン判決にある。ケーブルビジョンは、①ユーザはケーブルビジョンのサーバーまで長い線でつながったリモコンを保有しているようなものである ②ユーザ毎に割り当てられたケーブルビジョンのサーバーに、ユーザの指示にしたがって、番組を録画するのだから著作権を侵害しない と主張。ニューヨークの第2高裁はこれを認めた。

グーグルのサービス規約には、「あなたはあなたの音楽の複製を自分用に蓄積することをグーグルに指示します」とある。このため、ワイヤード誌はグーグルがユーザに指示される度にコピーを作成することで、著作権侵害で訴えられても、ケーブルビジョン判決を根拠に、複製の主体はユーザであると抗弁できるようなビジネスモデルにしたものとしている。

アマゾンは取材に応じなかったため、はっきりしないが、同様のアプローチを採用しているのではないかとワイヤード誌は推測する。

このように米国ではケーブルビジョン判決が追い風となっていろいろなクラウド・サービスが開花しつつある。

日本では文化庁が、「クラウド・コンピューティングと著作権に関する調査研究」を実施。2012年1月に報告書をまとめ、「クラウド・サービス」に固有の問題はないとして、クラウド・サービスに特に配慮した著作権法の改正は必要でないと結論づけた。しかし、「関係者ヒアリングでは、まねきTV事件、ロクラクII事件判決がクラウド・サービスへの影響を懸念する見解が多く示された」点も指摘している。つまり、両判決が事業者の新たなクラウド・サービス提供に対して萎縮効果を招いているわけである。

こう見てくると、クラウド・サービスもいつか来た道で、検索エンジンの道を歩みかねない。検索エンジンの歩んだ道については、「まねきTV事件」最高裁判決でクラウドも国内勢全滅の検索エンジンの二の舞か?の説明に以下を補足する。

同じアジアで、アルファベットを使用しない中国や韓国では、当初、グーグル、ヤフーなどの米国勢が先行したが、後発の国産検索エンジンがユーザのニーズにマッチしたサービスを、オプトアウト(検索されたくない場合はその旨、意思表示すれば検索を技術的に回避する手段を用意する)方式で提供し、米国勢を抜き去ってしまった。

国産トップの中国のバイドゥー(百度)や韓国のネイバーは、自国内での圧倒的シェアをバックに、余勢を駆って日本にも進出している。オプトイン(事前に検索するサイトの了解を取る)方式からオプトアウト方式への対応が15年遅れた日本は、国産検索エンジンが育つ機会を喪失しただけでなく、日本市場まで外国勢の草刈り場にされてしまったのである。

成長性は見込めないとはいえ、GDP世界3位の一大市場である。今後成長の見込まれるクラウド・サービスまで外国勢の草刈り場にされるままでよいのかである。

まねきTV、ロクラクII判決直後に読んだブログで身につまされたコメントがあった。判決を下した裁判官達は数年で天に召される方々なので、後のことは知ったことではないかもしれないが、先の長い自分達若者の生きる道をふさいでどうしてくれる という趣旨の投稿だった。
 
筆者は2004年に18年間住み続けた米国から帰国して、教職に就いた。それ以来、一時薄日が射したことはあったが、基本的に就職氷河期の連続。教え子が就活で苦労しているのを目の当たりにして、これはわれわれ大人の責任ではないか。

既得権、古いビジネスモデルにしがみついて、グーグル、アマゾンのように10年余でトヨタ自動車に匹敵するような企業を生み出せない、ひいては若者の雇用を創出できない。彼らこそわれわれ大人の怠慢の犠牲者ではないか との自責の念にいつも駆られていた。それだけに身につまされたブログだった。

これから投票に行く方の参考に、石あたま判決を下した裁判官のうち、国民審査の対象となっている裁判官は以下の4人である。

岡部 喜代子、大谷 剛彦、横田 尤孝、白木 勇