新政権の命運握る「円安」「株高」

2012年12月18日 09:31

衆議院総選挙の結果、自民党と公明党は3分の2以上の議席を獲得し、民主党は下野することとなった。選挙期間中から、総選挙後に成立するであろう新政権の経済対策に注目が集まっていた。

総選挙後、安倍自民党総裁は早速、新政権での方針を示し始めた。そこでは、政府と日本銀行が2%の物価上昇率目標を共有する政策協定を結ぶことや、大規模な2012年度補正予算を編成することを表明した。こうした政策の成否が、新政権の命運を握るとはいえ、何をもって「政策の成否」が測られるのだろうか。

本来、「政策の成否」は3か月とか6か月などという短期で見極めるべきものではない。しかし、「政策の成否」を早期に問われる局面が(幸か不幸か)待ち受けている。


というのも、来年7月には参議院選挙が控え、来年9月末までには2014年4月からの消費税増税を予定通り実施するか否かを見極めなければならない。そのときまでには、政治的な判断材料でしかないとはいえ、「政策の成否」を問わざるを得ない状況に置かれている。

「政策の成否」を測る指標は、政策目標との関連からすれば、物価上昇率や経済成長率が挙げられる(自民党は、総選挙時の政権公約で名目成長率3%以上を目指すことを示している)。※注1

しかし、選挙圧勝の勢いに乗って新政権が政策方針を強く打ち出したとしても、デフレである現下の情勢から直ちに物価上昇率を2%にする(2%を大幅に下回ったり上回ったりしない)のは困難である。さらには、経済成長率は、GDPの統計発表のラグがあることから、真に成長率が上昇したとしても、すぐさま上昇したと認識できるわけではない。

そうなると、物価上昇や経済成長の代理指標が、「政策の成否」を測る指標になりえそうである。物価上昇=通貨価値の下落を意味することから、連想されるのが為替レートにおける円の価値である。つまり、物価上昇=円の価値の下落=円安である。それとともに、将来の経済成長(もちろん国内に限定されるが)が企業の業績向上として現れるならば、それは企業の株価に反映されてしかるべきである。そう考えれば、経済成長率の上昇が先行して認識できる現象として株価上昇がありえる。

為替市場も株式市場も日々取引が行われるので、時々刻々と価格変動が起きる。為替レートや株価の日々の変動に一喜一憂すべきではないが、1か月~6か月というタームで「政策の成否」を測ろうとすれば(測らざるを得ないならば)、為替レートや株価は確かに測りやすいだろう。有権者にも認識しやすい指標である。

そう考えれば、新政権の命運は、政治的な判断材料として、円安や株価上昇が早期に実現できるか否かがひとまず問われることとなろう。円安や株価上昇が来年上半期に実現できたならば、来年7月の参議院選挙で与党が大きく敗北することは避けられるかもしれない。そして、2014年4月からの消費税増税も予定通り実施すると決めることになるかもしれない。

ところが、それだけで話は終わらない。

果たして、政権は円安や株価上昇を実現する手段を持っているのだろうか。結論から言えば、円安は簡単ではないが、株価上昇はトリッキーな手段ではあるが実現できないわけではない。

円安は、政府が為替介入を実施すれば実現できるかといえば、そうではない。確かに、経済学の先行研究によると、拙稿「介入資金、吸収しても効果」(日本経済新聞2010年12月6日朝刊経済教室)でも展望しているように、為替介入は一定の効果があるとされる。為替レートにはバブルが生じている(ファンダメンタルズから乖離して円高になったり円安になったりする)場合があるから、それに着目して為替介入をすれば、過剰な円高や円安を是正できる場合がある。※注2 しかし、ファンダメンタルズから乖離した為替レートに誘導することは(長期的には)困難であり、意味がないことでもある(皮肉を言えば、民主党政権が実施した為替介入は効果がないと批判しながら、手のひらを返したように、新政権で実施すれば効果があるというのはナンセンスである)。

株高は、株価(のファンダメンタルズ)が現在から将来にわたる配当の割引現在価値の和となることから、今後の企業の配当が増加すると予想されれば実現する。政府が企業の配当、ひいては企業の利益を直接的に増やすことは、基本的にはできない。しかし、政府が企業の配当に影響を与えられる唯一といってよい手段があるとすれば、それは税制である。代表的には法人税である。法人税率を引き下げれば、企業の税引前利益が増えなくても、税引後利益が増える。ここからは単純ではないものの、通常ならば、企業の税引後利益が増えれば配当も増えるだろう。こうした効果が広く認識されれば、法人税率を引き下げる政策は、株価上昇を実現できる。

ここで気を付けなければならないのは、公共事業を増額するといっても「無駄な」公共事業を行うなら、公的需要増の期待感から株価が上昇するという話が一時的にあろうが実体がなければたちまちその株価上昇は消失する。しかも、公共事業増額のための国債増発が、(物価上昇を伴わない)国債金利上昇の引き金となれば、企業の貸出金利も連動して上昇して逆に企業業績を悪化させかねず、身も蓋もない話になる。

株高に結びつく企業業績の向上は、本来的には政府の政策ではなく企業の自発的な努力によって実現されるものである。政府にできることは、規制緩和など、企業の努力を妨げる制度や慣行を除去することである。ただ、これは中長期的に良い効果が出るものの即効性に欠くことから、我慢強い取り組みが求められる。

拙速な政策、早計な成果の評価は禁物である。しかし、目前に迫る重要なイベント(参議院選挙、消費税増税実施の判断)があるために、短期的な「成果」も問われる制約が課されている。新政権には、短期の効果と中長期の効果が矛盾しない政策運営に知恵を絞ってもらいたい。

※注1 経済学の理論に基づけば、「政策の成否」は、本来、物価上昇率や経済成長率ではなく、社会厚生(家計の効用の加重和)で測るべきである。
※注2 為替レートのファンダメンタルズは、名目為替レート(例えば総選挙後に1ドル=84円になったというレート)でみるべきでなく、実質実効為替レートが妥当であろう。実質実効為替レートでみれば、現下の円高は未曽有の円高ではない点には留意が必要である。

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土居丈朗 @takero_doi

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土居 丈朗
慶應義塾大学経済学部教授

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