なにが競争力を高め、どのようなイノベーションが求められているかはもっと議論したほうがいい

大西 宏

1月23日に開催された産業競争力会議の各議員からの配布資料が公開されています。まだまだ議論はこれからだという感じでしょうが、結構面白いので一読をおすすめします。
日本経済再生本部 :
資料をざっと見て感じたのは、イノベーションの重要性は共通認識だとしても、議員の人によってイノベーションについての見方や考え方の違いがあることです。


楽天の三木谷社長は、日本の競争力の低下は技術開発力ではなく、ビジネスイノベーション力や国際経営力が低いことにあるとし、コマツの坂根会長も「日本は技術で勝ってビジネスで負ける事が多く、世界最先端技術の最終ビジネスモデルをしっかりと創る」ことが必要だと主張されています。
楽天三木谷社長ODF資料
コマツ坂根会長PDF資料

しかし、炭素繊維という競争力のある素材を持っている東レの榊原会長は、日本の企業の競争力低下原因のほとんどは、為替差(円高VSウォン安) 、日韓のコスト格差であり、事業戦略その他はそれにくらべれば圧倒的に小さいとされ、日本版産業競争力強化法を制定しようというアイデアも中味は技術によるイノベーションの活性化をめざすべきだという内容です。
東レ榊原会長PDF資料

民間企業なら、その分野によってどのようなイノベーションが求められているのかは、自らの立ち位置で考えればいいことですが、政策として競争力を高めるイノベーションが生まれてくる環境整備を考えるのなら、イノベーションについての国民の共通認識をつくることが極めて重要だと感じます。しかし、この会議を受けて、「第1回産業競争力会議の議論を踏まえた当面の政策対応について」という総理の指示がでていますが、原稿をまとめたのは官僚でしょうから、「課題解決志向を重視した研究開発を推進する科学技術・イノベーション立国を実現」という玉虫色の表現となっているのが残念なところです。
平成25年1月25日 総理指示(第3回日本経済再生本部) | 平成25年 | 総理指示・談話など | 総理大臣 | 首相官邸ホームページ :

イノベーションが技術だけの問題ではなく、しくみの変革も含まれることはドラッカーもいちはやく指摘していたことです。
しかし時代背景や、また産業分野によって、どのようなイノベーションが時代を牽引するパワーとなってくるかは異なるので一概にどうだとはいえないにしても、日本が置かれている状況は、技術力はいまだに健在にもかかわらず、どんどん市場規模の小さな部品や素材などの分野に追い込まれてきてしまっているのが現実です。これは三木谷社長が指摘されているとおりです。

だから小さな市場で独占的な技術や、圧倒的なシェアを持っている勝ち組企業は立派に世界市場で活躍しているのですが、エレクトロニクスや通信などの規模の大きな市場、最終製品市場などのように勝者になれば利益も大きい分野では、技術だけが競争力の源泉ではないので敗北がつづいているのが現状です。
国際競争力低下の原因は日本企業のマーケティング力不足にあり(前編) | 東洋経済オンライン(記事広告 ) :

その状況のなかで、どうせ日本からは、ビジネスのしくみやプロセスで世界をリードするようなイノベーションを求めるのは無理だから、技術でいくしかないし、まだまだやっていけると考えるのか、いやビジネスのしくみやプロセスのイノベーションを生み出していかなければ日本の競争力の復活はないよと考えるのかはどんどん議論し、国民や産業界の間に共通認識をつくっていくことが必要じゃないかと感じるのです。

現状は、ものづくりだ、技術だと、どんどん小さな市場に自ら突入していこうという発想をもっている人のほうが多いような気もします。とくに現実のビジネスを知らないマスコミにはその風潮があるのではないでしょうか。

それと三木谷社長が日本で国際経営力が弱い企業が多いこと、またビジネスのしくみやプロセスでイノベーションが起こってこない原因のひとつが、「能力が低く、ビジョンのない経営陣を保護するモラトリアム的システム」にあると言われると、おいおいいそこまでいうかとも感じますが、確かに日本に限らず、世界のビジネスは経営力、とくにリーダーの資質や能力による成果の違いが鮮明になてきているのは事実です。また、ものづくりの時代はTQCが日本の企業を進化させたと思うのですが、それにかわる新しい流れが求められてきているよういも感じます。

それだけに日本も、経営力を高めるためのなんらかのムーブメント、また優れたリーダーを輩出するしくみの構築が、もっとも早く競争力を回復させることにつながってくるのかもしれません。