アベノミクス支援のローソン年収アップ--「費用対効果」を考える

2013年02月12日 07:00

DSC_0011 小倉正男
ジャーナリスト

コンビニ大手ローソンが、グループ社員(3300人)の2013年度年収を3%上げると発表した。内部留保を原資に4億円を充当し、年2回のボーナスに平均15万円の上乗せを行う。さらに、これは単年度では終わらず、2014年も継続する、と(2月7日)。

ローソンの新浪剛史社長は、アベノミクスに賛同して、この決定を行ったとしている。

アベノミクスを提唱している安倍晋三総理には、朗報だったことはいうまでもない。アベノミクスは、年末・年初から「円安・株高」という幸先よいスタートを切ったが、「景気を取り戻す」というゴールはまだはるか遠方にある。


たった1社ではあるが、春闘前に3%の年収アップ行う企業が現れた。後に続く企業が出てくるかまだ見えないが、少なくとも「景気づけ」にはなる。安倍総理には、「援軍来る–」である。

アベノミクスは所得引き上げ要請に前傾姿勢

当然ながら、アベノミクスを推進する政府サイドは、もろ手を挙げての感謝発言ラッシュとなった。

翌日、つまり2月8日の国会で安部晋三総理は、「こうしたことが3ヶ月前に考えられたか。我々の政策が経済を変えていく」、と。

麻生太郎副総理・財務相・金融担当相は、「一社でもこういった傾向が出てくるのはいい傾向。たいして金利もつかない内部留保が、賃金、配当、設備投資に回らずにじーっとしている、という意味がわからない」、と持論展開。

甘利明経済再生担当相は、「大変ありがたいことだ。業績の上がった企業から可能な範囲で還元措置を考えてもらうことは日本経済の先行きを明るくするとてもいい材料だ」–。

興味深いのは、麻生副総理の国会発言(2月8日)。「(給料の引き上げは)企業に強制はしない。共産国家ではありませんので–」。これには議場から笑いも出た。

安倍総理は、即座に、この麻生発言を「政権としては撤回する」と表明。麻生副総理は苦笑い。「経済界に賃上げを全然しませんよという態度ではなく、協力してもらいたい。従業員に利益が出るという見通しのなかでは、それを還元していただきたい、ということを申し上げていきたい」。

安倍総理の「要請」は、もとより強制力があるわけではなく、「強制」ではない。厳密には、相矛盾する発言ではないが、スタンスに微妙な違いを垣間見せた。現状では、ご愛嬌で済んでいるが、安倍総理と麻生副総理は、日銀に対する“景気・雇用責任の明確化”でもニュアンスの違いを見せている。安倍総理のほうがはっきりと前傾姿勢である。

年収3%アップはタイミングよく「費用対効果」は絶大

ところで、ローソンが年収3%引き上げを発表したのは2月7日の株式市場が閉まった後。マーケットの評価は2月8日に出た。8日のローソンの株価は、前場から冴えない動きで6800円(130円安=1.88%安)で終わった。円安の一服で、日経ダウが200円超の大幅下げとなった日だったが、ローソンの株主としては、「従業員の年収だけ上げるのか。株主にも増配とか、自社株買いで還元してくれ」という意思表明だったのかもしれない。

ローソンの株価は下がったが、新浪社長個人の「評価」というか、個人の「株」は大きく上がったのではないか。3%の年収引き上げは、最初にやったから大ニュースとなった。

ローソンの利益剰余金は1165億円、3%年収引き上げに充当する4億円は利益剰余金の0.34%でしかない。利益剰余金1165億円は、一般的には収益に応じた給与や配当を払っていないから、あるいはM&Aなど先行投資や事業拡大をしていないから内部留保として残っているともいえるわけである。

ここまでくると従業員、株主どころか、ローソンにおにぎりなど商品を納入している業者・メーカー、あるいはフランチャイズ店オーナー、はてはアルバイト店員やお客まで“利害”関係がシビアにからんでくる。「ローソン本社だけ膨大に儲けているのではないか」、と。

4億円の年収3%引き上げ資金は、もともと社員に払うべきおカネというか、払っても惜しくないおカネである。ドブに捨てているわけではない。それで社員のやる気が引き出され、しかも時の安倍総理のアベノミクスを応援することになる。さらにローソンのイメージアップ効果も大きい。しかも、タイミングといえば、絶好だった。

4億円の「費用対効果」は絶大だ。新浪社長は、極め付きの商売人である、と世のなかに“証明”したことになる。

「ゾンビ資本主義」の果て

事実として、貯めこんだ利益剰余金の取り崩しがあまりに些細ではないか、ということはある。しかも、年収3%引き上げは、いまや死語に近いが「賃上げ」や「ベースアップ」ではない。ボーナス、あくまで一時金でしかない。給与・賃金のベースになるいわゆる「賃上げ」ではない。

本来ならあまり威張れないような小額のおカネのボーナス投下なのである。しかし、このささやかなおカネの投下で、ローソンのイメージアップを含めて抜群な効果を出している。多少の皮肉が入るが、おカネはこう使え、ということか。

しかし、それでも甘いかもしれないが、ここは「評価」してよいのではないか。

ローソンの利益剰余金1165億円というのもかなり凄い貯め込みぶりだが、ローソン以上の利益剰余金を持っている企業はゴロゴロ存在している。なかには、兆円という単位の利益剰余金を貯め込んでいる企業もある。その現実を勘案すると、新浪社長のやったことは、ロビンフッドのような「義民」とまではいかないにしても、それなりに「壮挙」の部類に入る。

市場経済を基軸とする資本主義社会で、「要請」ではあるが政府が企業に賃金、報酬、ボーナスなどの引き上げを呼びかけるのは、日本ならではのことだ。長期の景気低迷のなかで企業の内部留保はいったいどこまでいくのか、という巨額(260兆円)に積み上がっている。ローソンの年収3%アップという些細な行為が、「壮挙」の部類になるのは、これも日本ならではのトラジコメディということになる。

収益が上がっているのに給料も配当も出さず、設備投資もしない。稼いだおカネが循環せず、波及しない。稼いだおカネは封印してひたすら会社に「死蔵」–。これでは、「ゾンビ資本主義」の果て、というしかない。

関連コラム・小倉正男の経済羅針盤 アベノミクスはTPPにどんなスタンスを取るのか

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