グアム通り魔殺人犯の深い闇

2013年02月17日 23:10

グアム島タモンで2月12日の夜、一人の男が無差別通り魔殺人事件を引き起こしました。日本人観光客3人が犠牲になり、一命をとりとめたものの十数名の方が心身共に傷を負って帰国しています。犯人はチャド・ライアン・デソトという21歳。グアム当局やFBIによる捜査が進行中で、事件の全貌はまだ明らかになっていません。


あちこちの報道によると犯行の動機や背景は、両親の離婚やガールフレンドとの別れ、治療歴のある精神疾患の影響、さらには母親からの虐待、といった情報が入っています。捜査当局によれば薬物の影響はなかった、と言うものの、一部報道から「スパイス」という薬物を使っていたのでは、という話があったり「やつらがやれと言った」というデソトの証言が出てきたりして、こちらのほうもまだ不明です。

ちなみに、家庭内での児童虐待について言えば、2012年7月20日付けの」グアム新聞」では2011年におけるグアムの性的虐待にあった子どもの数が434人、と書いています。一方、グアム警察の発表によると犯罪検挙率がわずか12%という低さ。グアム島やサイパン島へも何度か行ったことがありますが、バブル期のホテル建設ラッシュの際に導入されたフィリピン人労働者らが建設工事後も居残って犯罪や問題を起こす、といったケースを耳にしたことがあります。置き引きや空き巣ばかりとはいえ、これでは治安がいいとはとても言えません。

グアムに限らず世界中にはたくさんのリゾートがあります。その多くは発展途上国や地域にあり、観光産業が現地の人たちの重要な収入源になっています。資源と言えば手つかずの豊かな自然や固有の文化だけ、という国や地域がほとんど。リゾートを訪れる人々は先進諸国から「非日常」を求めてやってくるわけで、むしろリゾート周辺地域は「近代文明に汚されず発展しない」ことを求められています。

今回の事件、動機や背景など、このリゾートという環境と何か関係があるのでしょうか。ここでは、それについてちょっと考えてみたいと思います。

先進国から巨大資本が入り込んだリゾートの場合、開発が進められた結果、大規模な環境破壊が起きました。また、現地の人たちの固有文化が娯楽として観光化され、伝統的な風俗習慣が観光客向けに変えられ、破壊されることもありがちです。さらに、先進国から発展途上国へ訪れる構図から、観光客と現地の人の間に不平等な関係や差別被差別的な意識が生まれたりもします。その中には経済格差による売買春などの問題も含まれるでしょう。

21世紀に入る前後に、こうした近代的なツーリズムに対する大きな批判や反省の動きが出てきます。まず現地の人たちや先住民の側から批判が巻き起こり、それに応える形で欧米など先進国の人たちが反省し、従来の観光の方法を改めよう、という考え方や動きが出てきました。先住民であるアボリジニの文化を尊重し、文化の再生や存続に貢献することが2000年のシドニー五輪の大きなテーマだったように、これらは少数民族や先住民に対する世界的な意識の変化も背景にあるでしょう。

リゾート観光を提供する旅行会社や現地の行政当局も変わりつつあります。それまでの免税店や関係する土産物店ばかりをめぐるオプショナルツアーに加え、現地の人たちと触れあったり先住民の風俗習慣などを学び体験する内容のものが増えてきました。

グアム島も例外ではありません。たとえば、グアム政府観光局はチャモロダンスを日本で教えるセミナーを開いたり、チャモロ文化を理解してもらうような広告宣伝を展開しています。同時に、チャモロ語の教育など、グアム先住民であるチャモロ人の文化復興の動きも起きてきました。古名である「Guahan」への地名改名問題も含め、こうした運動は広くポリネシア地域とも結びつき、1898年の米西戦争以来、日本占領期を除き、米国領であるグアムの北マリアナ連邦やハワイ州などとの帰属問題とも絡んで長く議論されています。

では、こうした環境変化とデソトの凶行には、いったい何か関係があるのか。ここからはあくまでも筆者の想像です。

今回の通り魔事件の犯人デソトについて、米国メディアからは当然ながら彼が何系かといった人種などの情報は多くありません。

この「Pacific Newe Center」を読むと、現地の公職サントス氏(副市長?)の言葉として「彼の両親は数年前に離婚し、グアム税関の(検疫)職員である父親(Christopher De Soto)は一緒にいない。彼の母親はパラオ出身。彼の母方の祖母はパラオと日本のハーフだ」と説明しています。日本のネット上では韓国系、などというデマも広がっていますが「De Soto」という姓(父親の姓?)から類推するとフィリピン系米国人の可能性が高いようです。

ご承知の通り、パラオは第一次世界大戦後、日本がドイツから委任統治を引き継ぎ、長く日本の影響があって今でも親日感情が強い地域。デソトの母親の名前は日本名が混じった「Rae Aiko Skey De Soto」らしいので、デソトには何系か不明ながら姓からフィリピン系と類推される父親と母親由来のパラオ系、そして日本人の血が流れていた、ということになります。

ところで、約16万人(2010年)のグアム島の人口構成では、チャモロ人が約47%で最も多く、次いでフィリピン系が25%、となっています。このフィリピン系の中には、前述したホテル建設ラッシュ時や米国海兵隊の基地移転事業に伴う労働者不足でフィリピンからグアム島へ来た人も入っているでしょう。その一方、グアム島のフィリピン系住民の中には、統治時代にスペインが行った激しい反乱鎮圧の結果、チャモロ人口が著しく減ったのを補うため、同じスペイン植民地だったフィリピンから連れてこられた人々も多く含まれています。

フィリピン人は共同体意識が強く、グアム島でもフィリピン人のコミュニティを作っています。デソトの父親が最近グアム島に渡ってきたフィリピン人なのか、古くからいるフィリピン系米国人なのか情報がないのでわかりませんが、どちらにせよ母親がパラオ出身の日本人の血を引く女性であり、父親とは離婚している以上、デソトがそうしたコミュニティ環境の中で疎外感を味わっていた可能性も考えられます。

観光ツアーへの意識の変化によってリゾート地の先住民文化がクローズアップされ、観光客から注目され、彼らが自尊心を取り戻すのと同時に、他地域から移住してきた人たちの行き場がなくなる、といったこともあるでしょう。もとよりリゾート観光地の先住民たちが尊厳を取り戻すことに反対する立場ではありませんが、逆にその反動から、グアムにおけるマイノリティな存在であるフィリピン人たちが、より強く結束をはかるようなことも起きるかもしれません。

最初からデソトが日本人だけを狙って襲撃したのか、もしそうだとすれば母方に流れる日本人の血と何か関係があるのか、ということまでは推測しきれませんが、彼がチャモロ人でもなくフィリピン人でもないことでアイデンティティを喪失し、先住民文化との間で孤独感を味わっていたとすれば、それが犯行の背景に横たわっている闇、とも言えるのです。

しかし、そんなことであれほど凶悪な犯行が引き起こされるのでしょうか。人間は弱い存在です。一人では生きていけません。生まれてから母親を含め他者と一切のコミュニケーションを断絶された赤ん坊は、いくら栄養状態が良くて快適な環境でもやがて衰弱して死んでしまう、と言います。

共同体から拒絶される恐怖は、我々の遺伝子の中に深く刻み込まれています。帰属意識を奪われ、共同体から拒絶され、疎外感に陥って自暴自棄になった人間は、行き場のない怒りや恐怖に耐えかねてしまいます。そして、そこに両親の離婚や失恋などの精神的な傷がかさなれば、今回の事件のような凶行に走ってしまうようなこともあるのではないでしょうか。

一方で、そうした恐怖を利用する連中も少なくありません。自殺してしまったバスケットボール部員の高校生や坊主頭にしたタレントなどは、共同体からはじき出される恐怖を煽った大人たちから脅かされてきた存在、とも言えます。それは「ブラック」と言われる企業にも当てはまるでしょう。

地縁血縁の共同体を破壊された地域は世界中に増えています。よるべない帰る場所のない若者たちはそうした場所で殴られ脅され収奪され、あるいはおかしな宗教に洗脳されながら生きています。そして逃げ場やアジールを失ったとき、ちょっとしたきっかけで彼らの「暴走」はいつどこでも引き起こされるのです。

もちろん、デソトの血脈をたどったからといって筆者に人種差別を容認するつもりは毛頭ありません。また、事件の犠牲者のご冥福を心よりお祈りし、負傷した方々が一刻も早く全快するように願っています。

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