ヤマギシ会はなぜトヨタに似ているのか --- 島田 裕巳

2013年02月25日 11:29

今年の1月、角川oneテーマ21の一冊として『7大企業を動かす宗教哲学』という本を刊行した。これは、宗教学の立場からの企業研究で、パナソニックからはじめて、ダイエー、トヨタ自動車、サントリー、阪急、セゾングループ(無印良品)、ユニクロといった代表的な企業を取り上げて、その経営哲学について分析を加えたものである。


この本を書くために、2年間研究会を続けたが、取り上げた企業のなかでもっとも興味を引かれたのがトヨタのあり方だった。トヨタと言えば、「かんばん方式」、あるいは「トヨタ生産方式」が名高いが、徹底して無駄を省こうとして作り上げられたシステムは、想像を絶するほど精緻で、効率的であり、これほどシステム化された企業は他にあり得ないという印象さえ受けた。

そして、分析を進めるなかで、私の頭のなかに浮かんできたのがヤマギシ会の存在だった。本のなかでは言及しなかったが、ヤマギシ会の仕組みとトヨタの仕組みは、実によく似ているように思えたのである。

トヨタの場合には、「ジャスト・イン・タイム」、「ニンベンのついた自働化」、「改善」が大きな柱になっているが、それは、工作機械を動かす上での無駄を省くために、機械を近づけたことに発している。それはすべてに応用され、ベルトコンベアとベルトコンベア、部品工場と本社工場、そして本社工場と本社とを限りなく近づけることで、それが離れているときに生じる無駄を徹底して省こうとしてきた。

しかし、それだけでは完璧な合理化を果たすことができない。そこで、生産に携わる人間が絶えず無駄を省くために自発的に努力する仕組みとして改善運動が提唱され、それは「仕事改善の中毒集団」と揶揄されるまでになった。ほかにも、文書化、部品の標準化、上役率先など、トヨタならではの経営哲学がある。決定的に重要なことは、そうしてトヨタに特有の経営哲学が、社員の勤労意識を高める「仕掛け」として機能するようになっている点である。

一方、現在では日本で最大の農事組合法人に発展したヤマギシ会であるが、当初は共同体を組織していたわけではなく、一般の農家に「ヤマギシ式養鶏法」を普及させることが運動の目的だった。

この時代の養鶏法は、「農業養鶏」とも呼ばれ、稲作を行う一般の農家が養鶏を取り入れることで、生産性を高め、現金収入を得ることのできる方法であった。そこで、昭和20年代に爆発的に広がるのだが、一番の鍵になったのが、普通は難しいとされた雛の育て方、育雛法だった。

その育雛法は、堆肥熱を利用したもので、育雛箱には熱室と冷室を作る。普段雛は暖かい熱室の方にいるが、餌は冷室におかれているために、そちらに行かなければならない。しかも、冷室に行くには傾斜を登らなければならず、雛の脚が自動的に鍛えられる仕組みになっていた。丈夫な雛を育てるには、脚を鍛えることが第一だったからである。

もう一つ注目されるのは、この農業養鶏について記した『山岸式養鶏法』(初期は、創立者である山岸巳代蔵の名前から山岸会と表記されていた)というマニュアル本では、途中までのことしか書かれておらず、あとは、皆が集まって話し合う「研鑽」で解決していくしかないようになっていたことである。

そして、ヤマギシ会が途中から共同体を作るようになった段階では、「無所有一体」という理念のもと、給料も休みもなく、私有財産のない仕組みが作られた。この仕組みが、1980年代にヤマギシ会が大きく発展することに貢献した。なにしろ、人件費という「無駄!?」が、いっさいない組織が誕生したからである。

トヨタ生産方式とヤマギシ式養鶏法、ジャスト・イン・タイムと無所有一体、そして改善と研鑽。トヨタの作り上げた仕掛けとヤマギシ会の作り上げた仕掛けには共通性がある。それが二つの組織の強みになっていて、かたや日本一の自動車産業、かたや日本一の農業産業に成長した。それどころか、トヨタが販売量世界一になったように、ヤマギシ会ほど規模の大きな農業共同体は、世界に類を見ないのである。

しかも、トヨタの拠点は愛知県豊田市であり、ヤマギシ会の拠点は三重県津市である。ともに東海3県にあり、地域的に近い。その上、どちらも地域に深く根差している。

トヨタ生産方式の原点は、その前身である豊田自動織機製作所にあり、創業者の豊田佐吉は、二宮尊徳の報徳運動の影響を強く受けていた。尊徳は、武家や藩、幕府の天領の財政の建て直しで大きな成果を挙げた人物だが、その方法は、借金を自動的に返済できるように当事者の行動を規定する「尊徳仕法」と呼ばれる仕掛けを作ったことにある。

山岸巳代蔵が、尊徳に影響を受けた証拠はないものの、両者の発想はかなり似ている。ともに、勤勉を呼びかけるのではなく、人間が勤勉に働く(ヤマギシ会の場合には鶏も)仕掛けを作り上げることに力を注いだ。トヨタは、そうした思想を現代のトップ企業において実践してきたわけである。

さらに言えば、佐吉は「日蓮主義」の影響も受けており、国家の発展のために産業を通して貢献するという考え方が強かった。これは、トヨタに限らず、日本の他の企業にも見られる考え方だが、ヤマギシ会の場合には、「理想社会」の実現を掲げてきた。つまり、徹底した合理化は、自分たちだけの利益をめざすものではなく、豊かな国を作るためのものと位置づけられていたのである。

ヤマギシ会とトヨタの類似性は、これからの日本の企業、日本の組織のあり方に、大きな示唆を与えるものなのではないだろうか。

島田裕巳
宗教学者、作家、NPO法人「葬送の自由をすすめる会」会長
島田裕巳公式HP

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