量的緩和と株式投資家のバカの壁

2013年03月01日 12:25

安倍総理は、デフレ脱却のためのインフレ政策を第一の経済政策に掲げ、日銀に執拗に金融緩和を迫り、さらに財政政策で日本の借金を増やしてでもばら撒きにより景気を回復させることを狙っている。こうした政策は賛否両論であるし、具体的にはほとんど何も行なっていないのだが、結果的に、市場の期待で円は安くなり株価は上昇した。衆院選を控えた昨年11月ごろの日経平均は8600円程度だったので、自民党への政権交代が期待され、そして実際に自民党政権になってからの3ヶ月の間に日本株は30%以上も上がったのだ。そして国債の長期金利は依然として極めて低いままであり、今のところ結果オーライといった所で、世論は安倍総理を支持しているようだ。今回は、なぜ株価が上がったのか、なぜ日本国債の長期金利が低いままなのか、そして今の株価は高すぎるのかどうか考えてみたい。


まず、株価が上がったのは、企業業績が改善されたというよりも、安倍総理のアベノミクスによるところが大きいというのが大方の見方だ。つまり、量的緩和によるインフレ期待から円安になり、また、将来のインフレを期待して日本円で見た名目の株価が上昇しているということだ。しかし、ここで債券市場、為替市場、株式市場が全く別々に動いているのは実に興味深い。これにはこれらの市場の投資家が、量的緩和をどのように理解しているのかを理解する必要がある。

仮にデフレ脱却が成功し、マイルドなインフレが起こると予想するならば、まず長期金利が上昇するはずである。経済のファンダメンタルズで決まるべき実質金利は次のような関係式で表される。

 実質金利 = 名目金利 - 期待インフレ率

つまり、名目金利は実質金利+インフレ率となり、インフレ予想でダイレクトに決まってくるのだ。しかし、名目金利は逆に低いままで、ついには長期金利は0.7%を下回ってしまって、歴史的に最低になっている。これはなぜか? 理由は簡単である。債券市場の投資家はプロばかりで、量的緩和に意味が無いことがよく分かっているのだ。だからアベノミクスで何も変わらないことを知っている。ゼロ金利下で、日銀がいくら銀行から短期国債を買っても、それは銀行が持って寝かせておいた国債が、寝かせておく現金に変わるだけで、実質的に何も変わらない。国債の市場はプロばかりで、実際の所、債券の投資家は株式の投資家より知能が高い。例えば、微分積分ができたり、難しい英語のファイナンスの教科書を読んだりすることができるのは債券投資家である。金利のマーケットはこのような人たちが動かしている。

一方で、為替トレーダーは心理学の世界である。ファンダメンタルズは重要だが、ファンダメンタルズの理論で分かることは、1ドル50円だったら円は高すぎだし、1ドル150円だったら安すぎだろう、ということぐらいだ。1ドル92円なのか、93円なのかを考えるのに、全く役に立たない。また、日本の個人投資家(ミセス・ワタナベ)などの大量の素人トレーダーが取引している。こうした集団の心理を予想して、プロのトレーダーは取引している。つまりアベノミクスで円安になると多くの集団が予想すると予想すれば、円を売る理由になるのだ。

さて、最後は株式投資家である。株式市場の投資家は、この中では一番知能が低い。日本でいえば、数学なしの受験で私大の文系大学に入学したような人たちだ。彼らがどう量的緩和を理解しているのかを理解する必要がある。ライブドアの株式分割バブルで見られたように、以前の株式投資家は、株価は時価総額を発行済み株式数で除したもので決まるということを理解していなかった。つまり株式分割で株式数が2倍になれば、株価は半分になるということすら分かっていなかったのだ。しかし日本の株式市場も成熟してきたため、多くの株式投資家は、時価総額と発行済株式数の関係を理解しはじめた。そして、そこにやってきたのがリフレ派の安倍総理である。こうして知識を身につけた株式投資家たちは、量的緩和というのは、中央銀行がやる日本円の株式分割であると理解したのである。残念ながら、数学なしの受験で私大に入ったような人たちが主役の株式市場では、未だにゼロ金利政策と量的緩和の区別が付いている人はほとんどいない。だから流動性の罠などといわれても、全くもって分からない。こうして債券市場の投資家が全く相手にしていなかったアベノミクスが、株式市場では大いに効果を発揮したのである。こうして考えると、量的緩和と株式分割の勘違いこそが現在の株高の原因だと分かる。

そして、日本株のファンダメンタルズを見ると、すでに割高の水準になってきている。筆者が週刊Spaですでに論じたことであるが、アメリカや世界の株式市場のPERは15倍程度で、新興国にいたっては10倍ちょっとにも関わらず、日本株のPERは20倍である。PERというのは基本的に成長率で決まるもので、新興国よりも日本の方がPERが2倍も高いのはふつうに考えておかしいと思うのではないか。まだ、明らかなバブルとはいえないまでも、すでに日本株はちょっと割高なのである。

結果的に、量的緩和の誤解によって、日本経済は好転するのかもしれない。やはり株価が上がると、みんな気分がいいのである。これは安倍政権にとって幸運なことであった。安倍政権はこうしたラッキーを無駄にせずに、これからは規制緩和や構造改革の気運を再び高めることによって、日本の底力を上げ、先行する株価に追いつくようにしてもらいたい。それができなければ、かつての民主党政権のように、早晩に株価も支持率も下落することになろう。

最後に大事なことを言っておくと、確かに株式投資家は債券投資家よりも勉強はできないが、一方で、勉強ができる債券投資家が間違っている可能性もある。なんせ、あのサブプライム住宅ローンが入った金融商品の利回りを計算していたのが、金融工学や数学や物理学でPhDを取った債券投資家の人たちなのだから。細かいことは分かっていても、大事なことが分かっていない可能性がある。日本の財政破綻が本当に起こるとしたら、正しいのは株式投資家の方だったということになる。

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