地方は食品産業で復活する

池田 信夫

小幡氏の批判は、まず対象が間違っている。私は「東京一極集中」しろといっているのではなく、「3大都市圏と地方中核都市」に集中しろと書いたのだ。


彼のいう「地方から若者を継続的に輩出するメカニズムを維持するための政策」とは具体的に何か。そんなものがあったら、地方はここまで衰退してないだろう。地方には今や農業以外に比較優位がないが、それを政府が統制経済で破壊してしまったから、地方には何も産業がないのだ。

しかし世界的にみると、新興国の人口増で農業は成長産業である。先週のアゴラチャンネルで浅川芳裕氏も言っていたように、穀物中心の農業に縁を切り、加工食品にシフトすれば、日本の農業は輸出産業になれる。

ところが自民党の石破幹事長は「農業農村所得倍増10カ年計画」なるものを提唱している。浅川氏によると、コメの関税を下げる代わりに10兆円ぐらいの「つかみ金」が用意されているというが、まさか農政通の石破氏がそんな愚策で農業が復活するとは考えていないだろう。

輸出できる産業に転じるために必要なのは、「農業」という素材産業を捨て、加工食品を中心とする「食品産業」に転じることだ。日本の食品が世界のトップレベルであることは広く認められている。それを生かして食品産業を輸出産業にするために必要なのは、むしろ農業関税の撤廃である。

たとえばわが家の近所にあるモンサンクレールというケーキ屋は、世界の数々のコンテストで優勝し、ケーキなどの菓子を輸出しているが、その材料となる砂糖やチーズの関税が数百%なので、大きなハンディキャップを抱えている。日本のカップラーメンもアジアで人気があるが、小麦の関税が高いので海外生産している。関税がゼロになれば、こうした産業が日本で育つ。

農林水産省も「食品産業省」と改称して、こうした付加価値の高い食品を生産・流通させる官庁になれば存在価値はあろう。土地改良や農業土木などに投入されている数兆円の予算は、石破氏のいうように農家への直接補償に切り替え、そのかわり農業関税を全廃すれば、地方は食品生産基地として復活するだろう。