アニメやマンガの人材をどう育成するか --- 中村 伊知哉

2013年05月10日 07:00

アニメやマンガの人材育成を進める産官学連携コンソーシアム。モンキーパンチ先生やちばてつや先生らが参加しておられます。ぼくはその総括委員長というのをやっております。マンガ業界のかたがたとアニメ業界のかたがたが寄り添って、どう人材育成すればいいのか、その共通カリキュラムを作ろうというものです。文科省の仕事なんですけど、アニメやマンガは大事なもので、その人材育成が課題なんだが、役所で考えるのはムリなので、民間に委託する、という正しい政策。


なんですが、現場のかたがたの声を聞くと、似たように見えて、ずいぶん両業界には違いがあります。

マンガの人材育成は、アーティストを養成することが基本。基本的に一人で作り上げる。単独で制作できる人を育てるのが狙いです。コミュニケーションを遮断してでも描き上げる人。マンガが自営業であるのに対し、アニメは組織の分業仕事。だから、アニメ業界が欲する人材はサラリーマン。コミュニケーション力があって、話を理解して、手の動く人。全く別種ですね。だからカリキュラムも異なります。

デジタル化対策も課題です。音楽はデジタル化によって設備産業からデスクトップ制作へと構造転換しました。映像もそうなってきています。アニメは分業の工程により、デジタルをフルに活かしています。テレビやDVDなどのアウトプットもデジタルですから、もはやデジタル表現と言ってよい。

ですが、映像や音楽よりはるかに情報量の少ないマンガなどの書籍はこれからの課題。制作現場では、先生はフルアナログで、アシスタントがデジタル担当、というケースが多いようです。まだデジタルの作画技術を取得するには苦労もあるそうです。ただ、コミケ系はフルデジタル制作が主流だとか。そちらから移行していくんでしょうね。市場としても侮るなかれ、商業マンガ4000億円に対し、同人市場は500億円に上るそうです。

アニメ・マンガの生産現場はデジタルに進んでいるものの、それよりも出版社のほうが遅れているとか。ふしぎですね。資本力のある装置産業のほうが中小の生産現場より投資が遅いって。音楽も映像も必要としなかった国の支援を仰いで出版デジタル機構ってのを作っているわけですが。でも、アマゾンで同人マンガが売れる日は近い。もはや正念場だと思います。

問題は、育成された人材の出口。アニメ制作者の人件費問題がひんぱんに取りざたされますが、それは産業側の重要課題として認識しつつも、就職という概念はあります。一方、マンガには就職はありません。出版社に勤めるわけではなく、作家になるか、作家に弟子入りするかなんですよね。人材育成を考えるに当たっては、この違いを押さえておく必要があります。

ところで、東京芸大の卒業生の就職先はコンビニが最も多いそうです。そこは問題があるというのか、芸大を目指すというのはそういうことであり、そのイグジットとしてコンビニが確保されていると見るべきか、悩ましい。
 
ぼくのところにも海外からアニメ・マンガ業界を目指して来る留学生がいます。そうしたインバウンドをどうするかという課題もあります。アニメは日本の方式がガラパゴスで、外国人留学生がなじめないという声も聞きます。アメリカのアニメはCG主体の3Dですが、日本は2Dを手で描く。これは人材育成というより、どういうアニメで生きるかのアイデンティティー問題です。

留学しようとしたものの、文科省のスカラーシップを2度落ちた学生が、その担当に「マンガは芸術ではないからダメだ」と告げられたという話を聞きました。真偽は確かめていませんが、そういう面があるとすれば変えてもらわないと。もうそろそろ声高に。

手塚治虫さんが亡くなった1989年、国民栄誉賞は「マンガはダメ」と却下されたが、2年後、長谷川町子さんは受賞に至りました。そのころから国の認識は変わってきたと思っているんですが。まだダメでしょうか。東京芸大にマンガ・アニメ学科を作ってもらわないといけませんかね。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年5月9日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑