「ブラック・スワン」は中東からやってくる?

池田 信夫

「油断」への警鐘昨夜のアゴラチャンネルは、前IEA(国際エネルギー機関)事務局長の田中伸男氏にシェール革命について聞いた。番組の最後のアンケートで76.9%が「とてもよかった」と答える最高記録だった。内容もシェール革命だけではなく、世界のエネルギー情勢を俯瞰して日本の戦略を語ったものだ(アーカイブで見られる)。

中でも切迫した問題は、本書も指摘するように中東の「油断」のリスクが高まっていることだ。イランは着実に核開発を進めており、イスラエルはそれが完成する前に爆撃する方針だ。ネタニエフ首相は「2013年の春から夏がイランの核開発を止められるレッドライン(限界)だ」と昨年の国連総会でのべており、夏までにイランの核施設への爆撃が行なわれるリスクが高まってきた。


イランはかねてから「イスラエルから爆撃があった場合には、ただちにホルムズ海峡を機雷封鎖する」と宣言している。日本の輸入する石油の85%、LNGの20%はホルムズ海峡を通っているので、戦争が勃発したら(石油は備蓄があるが)LNGはたちまち枯渇する。特に中部電力は電力の40%をカタールからのLNG輸入に頼っており、これが遮断されると、名古屋市の停電やトヨタの操業中止という事態も考えられる。

イラン=イスラエル戦争が起こると、原油価格は暴騰するだろう。それにドル高が追い討ちをかけ、原油価格が160ドルに上昇すると、原発が止まったままだと日本の経常収支は12兆円の赤字に転落する。株や不動産のバブルは崩壊し、投機資金は原油に流れてドル高が加速し、貿易赤字がさらにふくらむ――という「死のスパイラル」が待っている。

絶好調にみえるアベノミクスを襲う「ブラック・スワン」があるとすると、このホルムズ海峡危機だろう。安倍政権は選挙対策を最優先して原子力の問題から逃げているが、イスラエルの爆撃のリスクは巨大地震よりはるかに大きいので、今度は「想定外」という言い訳は許されない。原発の再稼働が最優先の課題だ。

すでに定期検査に合格した原発は、適法に再稼働できる。原子力規制委員会が、まだ中身も決まっていない新安全基準を根拠にして運転開始を阻止する権限はない。しかし政治的に必要なら、暫定的に新基準を前倒しで適用してでも、合格した原発から運転すべきだ。