「差し迫った健康リスクはない」福島事故をめぐる検討会で専門家が報告--国連機関

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(GEPR編集部より)「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR:United Nations Scientific Committee on the Effect of Atomic Radiation)の福島事故をめぐる調査報告の草案について概要が同委員会で討議された。そのプレスリリース(英語)を翻訳した。

以下本文
ウィーン5月31日(国連情報サービス)

「福島第一原発事故の放射線被曝は、即座の健康被害を引き起こさなかった。そして将来に渡って一般市民、原発事故作業員の大半の健康に影響をおよぼす可能性はほとんどないだろう」。

ウィーンに拠点を置く、「原子放射線の影響に関する国連委員会」(UNSCAR)の第60回会議はこのように結論づけた。


2011年3月の福島第一原発の後の放射線被曝で、人間に対する影響と事故後の環境をめぐる議論は、5月27日から始まった委員会の年次会議での大きな問題の一つであった。次の重要な問題は、子供たちの放射線被ばくの短期、長期の影響であった。子供の被ばくについては、福島事故だけに特に関係するものではなく、被ばくの医学的見地、放射線についての他の影響を考えるものであった。

今年末に行われる国連総会に、この報告書は委員会の採択の上で提出される。そして、そのリポートの根拠となった科学的なデータと評価は、それとは別に発表される予定だ。

1・福島第一原発事故に置ける放射線学的影響

80人以上の世界各国で研究実績のある科学者が、日本での2011年3月11日の原発事故の後で、被ばくの程度と影響を、利用できる情報を元にして分析をした。これらの人々が分析した証拠は、27カ国の代表が参加した国連科学委員会で詳細に検証された。委員会の報告書が発表されるとき、その報告はそのときまでに利用できる最も広範囲かつ国際的な科学分析となろう。

「1986年のチェルノブイリ原発事故の経験が示したのは、肉体的への直接的な影響は別にして、社会と社会的関係が事故に直面した公衆の健康にかかわることを、将来に渡って注意を払わなければならないということだ」と、UNSCEARの議長であるカール-マンガス・ラルソン氏は述べた。「多くの家族が苦しんでいるし、そして人々は住む場所を追われ、生活と将来の子供たちの健康を心配している。それこそが事故の長期にわたる影響なのだ。それと同時に、被ばくした人に健康の状態を改善する鮮明な未来像を提供するため、この人々に病気に関する長期の医学的な支援を続けることが重要だ」。

報告書の草案は、日本からの最新のデータを参照しながら、詳細に検討された。その検証方法、評価と放射線量は詳細に議論された。そして委員会はいくつかの勧告案をつくっており、国連総会に提出するための確定作業中である。「この報告は委員会の総意となるだろう」とラルソン氏は語った。

総じて、日本での住民の被ばく量は低い、もしくは「非常に」低いものであった。そのために日本の住民の健康リスクは低いものになっている。疎開と立ち入り制限という公衆を守ろうとする政府の対応は意味のあったことで、そうしなければ受けていたであろう被ばくを減らした。「これらの政府の対応は推定で10分の1以下に被ばく量を減らした。もしこの措置が取られなかったならば、今後数十年に渡って発がんリスクの上昇や他の健康上の問題が起こった可能性がある」と委員会は結論づけていると、UNSCEARのリポートで福島事故の放射線影響の担当者であるウォルフガング・ウェイス氏は語っている。

事故で拡散してしまった2種類の放射性核種の影響はまったく異なるものだ。主にヨウ素131からなる甲状腺に影響を与える放射線は線量が最大数10ミリグレイ程度までで、事故の後数週間以内で減少した。主にセシウム134とセシウム137からの全身への影響のあった被ばくは、最大で10mSv程度までで、生涯に換算してもその程度であろうと見込まれている。日本人の大半にとって、事故で拡散した放射性物質のからの被ばくは、1年当たりおよそ2・1mSvである自然からの放射線よりも少ない。

この被ばく量の推計は食物で放射性物質を摂取してしまうかもしれない、福島県から離れた場所で生活している日本人にも当てはまる。

放射線による関連の死亡または急性被ばくによる深刻な影響は、東京電力の従業員、その関連会社社員を含む、事故を起こした原発で働いた約2万5000人の労働者で観察されていない。

被ばく量の多い原発労働者がいたとしても、この水準の被ばくでは甲状腺がんが増える可能性は少ないであろう。個々の作業員に対しては、被ばく量が100mSvを上回った作業員については、甲状腺、胃、腸などの臓器、肺への検査を含む、特別な健康診断が行われる予定だ。

事故によって、その直後の数ヶ月、動植物には自然放射線の数倍の放射線を浴びたものがあったが、その影響は一時的で、その生存期間への影響はわずかであろうと、報告の評価は結論づけている。総じて見ると、事故を起こした原発の海と原発の近くにいた人間以外の生物相の被ばくは、影響が正確に分析できるには、あまりにも小さすぎた。影響の可能性があるものとしての例外は水生動植物だ。特に放射能汚染水が海に放出された地域では影響があるかもしれない。

「海洋汚染の点において、高い汚染が起こった地域の海におけるいくつかの生物において、潜在的なリスクがあると言えるかもしれない。しかし利用できる情報で詳細にそれを評価することは難しい」と、UNSCEARのマルコム・クリック事務局長は語る。(UNSCEAR事務局は国連開発計画(United Nations Environment Program)(UNEP)によって運営されている)「福島の環境における生物の被ばくは、住民に対する一時的な被害さえも引き起こしそうにない」と、彼は付け加えた。

2・UNCEARリポートの子供の被ばくに対する評価

生理的、そして肉体的な違いのために、放射線の被ばくは、大人と比べて子供たちに異なる影響を及ぼす。
委員会は、福島第一事故の前から、これらの違いについて包括的な検証を始めている。この報告についても、今年中に国連総会に提出される予定だ。

環境中における放射性物質の影響が、大人と子供では同じ地域においても異なる。例えば地上面での放射性核種の放射線量のレベルが上がるときなどだ。また子供たちは医療における放射線利用において、その技術的な対応が適切に行われなければ、大人よりも大きな影響を受けてしまう。

放射性核種が摂取されたり、吸入されたりしたときに、肉体組織内におけるその核種は、子供たちの体が大人よりも小さく、体内の器官が近接しているために、より高い放射線を他の組織に与えてしまう。これに加えて、代謝と生理反応は年齢によって定まり若年の方が活発であるため、それぞれの核種は肉体の各器官で濃縮されやすく、他の器官に放射線を照射する部位をつくってしまう。

放射線に被ばくした後で大人と比較すると、子供たちは腫瘍の種類のおよそ30%において明らかに放射線に敏感に反応してしまう。これらの種類は、白血病と甲状腺、皮ふと脳のがんを含む。また子供たちは、腎臓、膀胱の腫瘍など、腫瘍の種類の25%においては大人と同じ感度を持っており、肺がんを含む腫瘍の種類の10%に関しては大人より敏感ではない。

高線量被ばくの後で起こる影響を考えると、委員会は若年層の被ばくは、大人よりも、発がんでの多くのリスクをもたらす若干の例があると結論づけている。例えば、脳、白内障、甲状腺の嚢胞などだ。同様に、いくつかの他の疾患のリスク増加の例もある。例えば腎臓の神経内分泌システムへの影響だ。そして子供たちの組織が、放射線に大人よりも耐えられる例がいくつかある。肺、免疫系、骨髄と卵巣などだ。

「より多くの調査研究が、子供の被ばくのリスクと影響を完全に理解するために必要だ。まだ高線量の被ばくを生きている人、例えば原子爆弾の投下を生き残った人はまだ存命しており、この調査は必要であるし、可能でもある。人々の体験を失ってはならないのだ」。UNSCEARのリポートで、子供の被ばく影響をまとめた担当者であるフレッド・メットレール氏は語った。そして彼はこのリポートが、子供に対する放射線の包括的な影響を総合的に分析した、把握できる限り最初の文章になるため、価値ある成果となるとつけ加えた。

1955年に設立された「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR:
United Nations Scientific Committee on the Effect of Atomic Radiation)の任務は、電離放射線の人間の健康と環境に対する影響を幅広く調査することだ。その評価は、科学的な評価基準を国連諸機関と各国政府に提供する。

UNSCEARは福島原発事故から生じている放射線の被曝ばくについて、その水準と影響の科学的な評価を行った。その評価では、核の安全、また緊急対策については評価していない。