元CIA助手の政治亡命受け入れ? --- 長谷川 良

アゴラ

米中央情報局(CIA)元技術助手エドワード・スノーデン氏(29)が英紙ガーディアンと米紙ワシントン・ポストの2紙に対して、米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していると暴露した。

同報道はオバマ米政権を震撼させているだけではない。欧州でも大きな反響を呼んでいる。対テロ対策という名目で米国が欧州国民のプライベートなネット情報も収集してきたことが判明したからだ。NSAとの連携を疑われた英政府のヘイグ外相は下院で「そのような事実はない」と弁明しているほどだ。


アルプスの小国オーストリアでもここ数日、トップないしは準トップでNSAのネット情報の監視問題を大きく報道している。オーストリア国営放送は11日、「野党の緑の党ピルツ議員はスノーデン氏の政治亡命を受け入れるべきだと提案した」と報じている。

1野党議員の突発的なアイデアではない。オーストリアは冷戦時代、200万人以上の旧ソ連・東欧諸国の政治亡命者を収容してきた「難民収容国家」だ。経験と体験は十分ある。

ただし、スノーデン氏の政治亡命受け入れを表明しているのはオーストリアだけではないらしい。メディア報道によると、ロシアも受け入れ姿勢を示しているという。ロシアの場合、スノーデン氏を受け入れる事で、米国の情報活動に関する貴重な情報が獲得できるという政治的、戦略的な狙いがあることは疑いないだろう。

スノーデン氏はインタビュー番組の中で「もはや故郷に帰ることはできない。NSAが必死に自分の居所を探すからだ。ハワイの家庭も全て失う」と述べている。年給20万ドルの高給を捨ててまでNSAの情報活動を暴露した理由について、「政府当局が個人の情報まで監視することは許されない」と述べ、良心に従って情報をリークしたという。ちなみに、オバマ米大統領自身は「米国民をテロから守る為には必要な手段だ」とNSAの情報活動を擁護したという。

当方は先月、このコラム欄で米国CBS放送の人気番組「パーソン・オブ・インタレスト」(Person Of Interest)を紹介したばかりだ(「われわれは見られている」2013年5月28日)。名優ジェームス・カヴィーゼルが元CIAエージェントを演じ、マイケル・エマーソンが演じるコンピューターの天才(ハロルド・フィンチ)と連携し、近い将来起きるであろう犯罪を防止する。必要な情報は全公共機関と連結するコンピューター網と監視カメラ、ネット情報から入手する。その内容はNSAの「プリズム」と酷似している。両者の違いは、前者は犯罪を、NSAは潜在的テロリストをそれぞれターゲットとしていることだ。

ところで、香港に身を隠していたスノーデン氏はインタビュー後、姿を消した。政治亡命したのだろうか、それともNSAの手に落ちたのだろうか。ひょっとしたら、オーストリアに政治亡命し、チロルのアルプスが見える隠れ家で身を潜めながら事件の推移を追っているのだろうか。いずれにしても、スノーデン氏の政治亡命を受け入れた国は米国からさまざまな圧力を受けることは避けられないだろう。

なお、オバマ大統領は米中首脳会談で習近平国家主席に「中国のサイバー攻撃を中止するように」と強く要求したが、スノーデン氏の暴露は「米国も同じ事をしている」ということになり、サイバー問題で米国側の立場を弱めることになる。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年6月13日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。