デトロイトにはいつかまた春が来る --- 岡本 裕明

アゴラ

デトロイト市が米連邦破産法第9条を裁判所に申請し破綻しました。自動車あるいは音楽の都として世界中にその名が知れているこの街はどうなるのでしょうか? 日本でも夕張市が破綻したなどの例はありますが、全米で18番目に大きなデトロイトの再生は勿論一筋縄ではいかないでしょう。日本がデトロイトに学ぶことは大いにあるかもしれません。


破綻した直接的な原因は人口減、雇用減、そのきっかけが2009年の自動車産業の破綻でした。連邦政府の救済プランで自動車会社は再生したものの市の財政にはそのメリットはまだありませんでした。その上、市の財政の38%が年金と医療費負担に投じられ、持続不可能の状態になっていたのであります。

このシナリオは実は今の日本に照らし合わせるとぴったり来るものがあります。少子高齢化、国内産業の空洞化、そのきっかけがグローバリゼーション、さらには社会保障費が急増し、国債で賄わないとまったく成り立たない国家財政はデトロイトのそれとなんら変わりがありません。

では、今後どうやって再生していくのかといえば、技術的には債権者の債権カットがまず先行するでしょう。カジノ収入などを通じた担保付債権者のヘアカットは25%程度で収まるかも知れませんが、それ以外の債権者はまったく予断を許さない状態です。1兆8000億円規模の債務に対して半分になるのか、数分の一になるのか、これから激しいバトルが繰り広げられるでしょう。

また、市が所有する不動産の売却が進むことになりそうです。ただし、デトロイトには空きの建物、施設が4万箇所あるとされ、犯罪率もアメリカで最悪、警察を呼んでもアメリカ平均の11分に対して58分かかり、貧困率は36%に及ぶところです。資産売却に動いても優良物件ですらそう簡単に動くとは思えません。

ここまで聞けば悲惨以外のなにものでもないのですがここからがアメリカの大したところで、基本トーンは「やり直そう!」という前向きな声なのです。GMやクライスラーも協力できることはする、という前向きのコメントを出しています。企業再生の辣腕弁護士で緊急財務管理者に指名されたケビン・オーア氏も今週末はBBQをする気持ちの余裕があるようです。

これは何を意味するかといえばやり直しがきくアメリカの良さそのものなのです。アメリカの企業は大手や世界に名の知れた企業でもあっさり破綻しますが、直ぐに回復します。航空会社がその典型だと思います。先般のリーマン・ショックで家を失って個人破産した人たちはいつまでもぐずぐずしているかといえば再生しているのです。もう一度、家を買おうと企てているのです。そして再生に対して社会は暖かく拍手で迎え入れるのです。

日本はその点、罰点が一生付きまとい、人生に破綻した人、というレッテルが貼られます。また、破綻した人や会社はその破綻者意識をもって開き直ったり、再生への夢を捨てたりするケースがしばしば見受けられます。そして時として誰かに「恨み節」をいい続けることになります。

私の日本が嫌いなところはまさにこの点なのです。チャンスは一度しか与えられないのか、何度でも挑戦できるのか、大きな相違があります。勿論、やり直しがきくから頑張らずに破綻させてしまえ、という暴力的思想がないわけではありません。ですが、日本は悪いところにばかり焦点をあてることが多すぎる傾向があります。ただし、震災の時は頑張る日本に焦点が当てられ、被災者のみならず、日本全体が高揚していたのではないでしょうか? これぞあるべき姿だと思います。

デトロイトにはまた春がきます。必ず、来ます。それは70万の市民が頑張ろうという気持ちをひとつにすることで達成できるでしょう。不安感があるのは誰だって同じです。ですが、ここで汗を流せば一歩一歩改善していくと確信しています。頑張ってもらいたいと思います。また、日本も財政再生がどのようにして行われるか、市民のマインド研究を含め、注視すべきかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年7月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。