太陽光発電による脱原発の可能性について考える(3) ~発電コスト~ --- うさみ のりや

アゴラ

前回は農地との資産効率の比較で太陽光発電による脱原発の可能性を検討しましたが、今回は肝心の発電コストのお話です。毎度言っておきますが、私は太陽光発電に対してかなり懐疑的なスタンスを持っている立場ですので、読者の方はその点勘違いなきようよろしくお願いいたします。さてまずは議論の出発点として政府の検討のおさらいから各電源の発電コストの概況を見ることにします。ということでいわゆる固定価格買取り制度の開始前に設置された政府のコスト等検討委員会の報告書(http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/8th/8-3.pdf)を見てみると、各電源の発電コストは2030年時点での将来性も込みでこんな風にまとめられています。


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主要電源と太陽光との比較だと

原子力  :(2010年) 8.9円/kwh   (2030年) 8.9円/kwh

LNG火力:(2010年) 10.9円/kwh    (2030年) 10.7円/kwh

太陽光  : (2010年) 33.4円~38.3/kwh  (2030年) 9.9~20.0円/kwh

というような感じです。他の電源の技術が成熟しているので、固定値になっているのに対して、太陽光はデータのばらつきやイノベーションの可能性を加味して幅を持った値となっています。ということで今回考えるのは「どの程度まで太陽光発電はコストが下がると見込まれるのか」ということです。ちなみに送電コストはまた別の機会に考えます。

 

太陽光発電の発電コストの現在地

 

太陽光発電の発電コストを考えるにあたってどうしようと思ったのですが、あんまりゼロから積み上げても訳が分からなくなるので、すでに検討した知恵を生かすとして、平成24年度の太陽光発電の買取価格である42円/kwhの根拠となったと思われる以下の資料をベースに考えていくことにしたいと思います。

42円発電コスト元

 

見ての通り上の図では設備のkw単価が32.5万円の前提で計算されています。前述のコスト等検討委員会の報告書のデータを見ると太陽光発電に関しては(33.4円=資本費(26.6円)+設備維持費(6.8円))と資本に対する維持費をおおむね6.8÷26.6=25.5%で計算しています。それを踏襲して考えると、設備のkw単価32.5万円という前提の下では維持費も含めたkw単価は32.5万円×1.255≒40.8万円となります。ここから同委員会で前提としている設備利用率12%、償却期間20年、割引率3%を加味して発電コストを算出すると以下のようになります。

 

発電コスト=資本の割引現在価値÷(発電量)÷(償却期間)

=(40.8万円×1.03の20乗)÷(24h×365日×12%)÷(20年)

=(73.7万円)÷(1051.2kwh)÷20年

=35.05円/kwh

 

ということで、平成24年度の時点で太陽光発電の発電コストはおおむね35円/kwh 程度と評価されていたことがわかります。たださらにここから太陽光発電のシステムコストの低減は進み、現在では設備kw単価25万円まで下がってきています。(参考:http://www.fujiwara-inc.com)上の式では発電コストは設備kw単価に完全に比例するので、計算してみると(35.05×25万/32.5万=35.05×10/13≒27.0)となります。ということで現在の太陽光発電設備の発電コストは27.0円/kwhということになります。

 

LNGの価格が高騰して現在火力発電の発電コストが13円/kwh程度といわれているので、おおむね火力発電の2倍、原発の3倍程度が太陽光発電のコスト競争力ということになります。いまいちだけど、それほど高いという訳ではない、というところでしょうか。たった一年で発電コストが8円も下がったという点では上出来と言っていいかもしれません。ただ問題はこの価格低下傾向が続くのか、ということです。

 

 

量産による太陽光発電設備の設備kw単価の下落の可能性

ということで太陽光発電設備がこの勢いに乗ってどの程度まで値段が下がるかを考えていく訳ですが、ここでは変換効率を現状の水準で固定させて短期的な量産効果によりどの程度の価格低落が望めるか、ということについて考えていきたいと思います。

まず「脱原発」ということを考えている訳ですから設備kw単価がいくらまで下がる必要があるかを考えることから始めたいと思います。(ちなみにまた後日説明しますが電力システム全体の安定性を保つためには太陽光発電設備は火力発電または蓄電設備とセットで導入する必要性がありますので火力とは競合しません。)上記の通り原発の発電コストは8.9円/kwhなので、これを目標とすると 25万円×(8.9/27)で 何と太陽光発電設備は設備kw単価8.2万円まで低落させる必要性があります。検討する前から言うのもなんですがさすがにこれは苦しい気がします。

さてでは太陽光発電コスト構造ですが、産業技術総合研究所の桜井氏の資料から引用しますと以下のような構造になっています。

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上記に引用されているのは(日本と同じく)欧州勢と比べ太陽光発電設備の価格が高かった2011年の米国のデータなのですが、太陽光発電システムに関してはこの時点ではハードのコストば2割程度しかしめていません。これをみると近年の太陽光発電システムの価格低落は、設置業者・施行業者のサービス効率化によって達成されたと推測できます。また一方で太陽光パネルの量産効果による価格低落の期待余地が乏しいことも示しており、これは両方ともメーカー側の主張とも一致しています。ちなみに現実の太陽光モジュールの価格を見ると、一時期は中国勢の生産過剰で凄まじい勢いで下落していたものの、Qcellsやsuntechといった大手の倒産や材料メーカーの撤退もあり価格下落に歯止めがかかっています。

発電モジュール価格推移

元々太陽光パネルのラインは100mwで出来ているので、それ以上の量産効果がないことは業界では前々からいわれていたことでもあるので、ここでは「太陽電池モジュールの価格は下げ止まった」ということを前提に話を進めていきたいと思います。では施行業者側の努力でどれくらいの価格低落が見込めるか、ということなのですが、ここでは「太陽光発電先進国」と呼ばれているドイツの例を見てみますと、住宅向け価格ではありますが設備kw単価20万円まで下がってそこで下げ止まっているのでこれを参考とすることにしますし。(ソース:http://members3.jcom.home.ne.jp/tanakayuzo/german-solar/newpage13.html

 

ということで設備kw単価は20万円まで下がると考えて、発電コストを例によって上の式に当てはめると(35.05円×20万/32.5万=35.05×8/13≒21.6円)となります。ということでここでは

 量産により太陽光発電の発電コストは21.6円/kwhまで下がる

とさせていただきたいと思います。これでは原発はおろか火力にも及ばない訳で、量産以外の発電コストの低下方法である変換効率の上昇に期待するしか無いという結論になります。

 

総括

なんだか長々と語った割に最後はドイツとの比較と言うしょうもない話で終わった訳で大山鳴動してネズミ一匹的な内容ではありますが、とりあえず本日の結論としては

 

「量産効果では太陽光発電のコストは21.6円/kwh程度までしかさがらず、原発の8.9円/kwhに遠く及ばない。よって短期的な量産での脱原発は不可能。」

ということにさせていただきます。次回以降は技術革新の可能性を加味して考えてみたいと思います。ではでは今日はこんなところで。


編集部より:このブログは「うさみのりやのブログ」2013年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はうさみのりやのブログをご覧ください。