原発はなぜ再稼働できないの?

2013年08月05日 17:40

電気代の値上げが、全国で始まりました。東京・関西・九州の3電力に続いて、東北・北海道・四国の3社が9月から値上げします。家庭用では平均8%ですが、業務用では10%以上の大幅な値上げになっています。値上げはどこの社も30年ぶり以上だそうですが、なぜそんなことになったのでしょうか?

それは全国のほとんどの原発を止めたので、足りない電力をまかなうために石油やLNG(液化天然ガス)の輸入を増やしたからです。この輸入増は昨年は3兆円を超え、今年は3兆8000億円と推定されています。毎日100億円を火力発電所で燃やしているようなものです。事故を起こした福島第一原発はわかりますが、他の事故を起こしてない原発が、いつまでも止まっているのはなぜでしょうか?

それは2年前の5月に菅首相(当時)が中部電力の浜岡原発を止めるように「お願い」したあと、全国の原発が定期検査を終えても再稼働できなくなったからです。しかし政府が「再稼働するな」と命令したわけではありません。そんな命令をする法的根拠がないからです。定期検査の終了した原発は、役所から「安全基準を満たしている」というお墨付きをもらったので、今すぐスイッチを入れれば運転できるのです。

これとは別に原子力規制委員会が新しい安全基準を決め、その審査を始めました。これは新しく設置される設備が安全基準に適合するかどうかを審査するもので、再稼働の審査ではありません。そもそも法的には、再稼働の審査なんて必要ないのです。定期検査に合格すれば運転するのが普通の手続きで、原子力規制委員会には運転を許可する権限はありません(これは田中委員長も言っています)。

ところが民主党政権が、法律にもとづかないで「空気」で全国の原発を止めたため、どうすれば動かせるのか、わからなくなってしまいました。自民党政権は動かしたいのですが「空気」が恐いので、安全審査が終わったものから動かすことにしています。しかし規制委の審査は半年に3基というペースなので、このままでは全国で止まっている約50基の原発をすべて動かすのに8年かかります。

おまけに、それさえ妨害しようという人々がいます。新潟県の泉田知事は「東電が規制委の審査を受けるのは許さない」と言っていますが、新潟県にはそんな権限はありません。原子力行政は国の所管なので、地元が安全審査を拒否する根拠なんかないのです。他の自治体は安全審査については規制委にまかせると言っていますが、泉田知事だけが何の法的根拠もなく「いやだ」と言っています。

新潟県には柏崎刈羽原発という世界最大の原発(出力820万キロワット)があり、東電の電力の12%を発電しています。これが止まったままだと、ただでさえ原発事故で経営の破綻している東電の経営はますます苦しくなり、そのコストは電気代に上乗せされます。今回の東電の値上げは柏崎が動くという前提でコスト計算したものだから、動かないと最終的には2割以上の値上げになるでしょう。

また10兆円を超えるともいわれる原発事故の賠償費用のほとんどは、国営の原子力損害賠償支援機構が負担するので、全国の納税者が消費税5%分ぐらいコストを負担する結果になるでしょう。今のうちに原発を動かして少しでもコストを減らしておかないと、負担が利用者に回ってきてから「値上げはいやだ」と言っても遅いのです。

原発の安全性を高めるのはいいことですが、それは定期検査に合格した原発の運転とは関係ありません。2005年に姉歯事件というのがあって建築基準法がきびしくなりましたが、それは新基準のできる前に建てた建物には適用されません。みなさんの家が「新しい建築基準法に合わないから取り壊す」と言われたら困りますよね。原発も同じことです。

特に柏崎については、安全審査をしないと莫大な国民負担が発生します。審査を申請するのは東電の経営判断であり、地元には事後的に説明すれば十分です。こうやって何でもすべての関係者の合意を得ないと進めないのが「決められない政治」の原因です。日本は法治国家なのだから、政府は法にもとづいて柏崎の安全審査を行ない、それと並行して全国の原発の再稼働を進めるべきです。必要なのは、安倍首相の決断だけです。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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