『半沢直樹』にみる「泣き笑い顔」の世界

アゴラ編集部

1985年に起きた日航機墜落事故から今日で28年が経ちます。520人が亡くなった事故ですが、その中に歌手の坂本九さんがいました。あの日のことをよく覚えているのは、渋谷のバーで飲んでいたら個人的に坂本さんと親しかったママが「九ちゃんが死んじゃった」と号泣したからです。坂本さんがザ・ドリフターズにちょこっと在籍していた、というのは有名な話なんだが、あの独特の「泣き笑い顔」も特徴的。ユーモアとペーソス、という言葉がありますが、底抜けの明るさの中にどこか哀愁が漂うような表情です。


こうした「泣き笑い顔」は芸能人になるとけっこう支持されます。今では俳優の堺雅人さんが代表格でしょう。高視聴率で話題のドラマ『半沢直樹』も彼の表情がなければ魅力半減といったところです。単なる復讐劇に終わらず、ストーリーに印影が表れているのは、主人公の複雑な心情を表現した堺さんの「顔」も大きいんじゃないか、と思います。ピカレスクロマンの要素も多分にあるドラマですが、あの「泣き笑い顔」にほだされ、ついつい主人公の境遇に感情移入してしまう。そういえば、主人公の自殺した父親役の笑福亭鶴瓶さんも「泣き笑い顔」です。

鶴瓶師匠に限らず「泣き笑い顔」はコメディアンにたくさんいます。今をときめくキンタロー。や最近ちょっとパワー減退気味のスギちゃんもまたユーモアとペーソスを売りにしているタレントです。ユーモアとペーソス、そしてアイロニーはコメディの重要な要素です。サーカスのピエロしかり、チャップリンしかり。単にユーモアだけでは底の浅いコメディにしかなり得ません。逆に、ドラマ『半沢直樹』はけっこうシリアスな内容ですが、主役である堺さんの「泣き笑い顔」が深刻になり過ぎないための緩衝材になっている。『上を向いて歩こう』も、悲しくても前向きに、というような歌詞です。人生悲喜こもごもなんだが、どっちかに寄せ過ぎず、バランス良く配合することが多くの人の共感を得るためのキモなのかもしれません。

田舎暮らし 白河
半沢直樹と韓流ドラマ

※今週の「今日のリンク」は恐縮ですが「お盆バージョン」で短めにお届けしてます。


アゴラ編集部:石田 雅彦