若年者失業率は低ければ低いほどいいことなのか?

松本 孝行

世界では若年者失業率が高いことが大きな問題になっています。最近ではギリシャやスペインで若者の失業率が50%を上回っているということがニュースになっていました(参照)。一方の日本はと言うと若年者失業率については諸外国よりもかなり低く8~9%の間で推移しています。

一見、若年者失業率が低いというのはいいことのように思いますが、それは本当でしょうか?若年者失業率は低ければ低いほどいいのでしょうか?むしろ日本は20%程度という欧米並に若年者失業率を高い状態にした方がいいのではないか、とも思います。


日本の若年者失業率が低い原因の一つは「卒業後すぐに就職する」という雇用慣行にあると思います。新卒一括採用が悪のように言われていますが、新卒一括採用が一括で多くの若者を採用することに寄与しているのは間違いありません。

しかし「卒業後すぐに就職する」という雇用慣行のお陰で当の若者たちにとって弊害になっていることが2つあると思います。一つは就職できない・失業しているということに対する社会的なプレッシャー、もう一つが寄り道を許さず、むしろマイナス評価になるという閉塞感です

「卒業後すぐに就職する」というプレッシャーを若者が感じているのは、就職のために就職留年をしてもう一度新卒採用の枠に入ろうとしたりする点からも、相当なプレッシャーを感じていると思います。またニートやフリーターが社会的に問題視され、ニュースで取り上げられることからも、就職していない状態は良くないことだという空気を敏感に感じ取っているでしょう。しかし失業率がギリシャやスペインほど高ければ、社会的にも「これはあなた自身の問題ではなく、社会の問題だから」と考えるのが自然です。ギリシャやスペインほどではなくても若者の4,5人に1人が就職していないのであれば、社会からの「就職しろ!」という空気による無言のプレッシャーが少なくなるのではないでしょうか。

また、もう一つのポイントとして、寄り道が出来ないということがあります。世界では寄り道をしてから就職をするのが主流、という話をよく聞きます。よく言われるのが欧米ではインターンシップをして、ボランティアをしてアルバイトをしたり、様々な社会経験を経た後に就職するというものです。日本では新卒一括採用もあり、留学をすることによって時期によっては就職試験に応募出来なかったり、卒業後は新卒ではなく既卒になってしまうので応募できないということが当たり前のように起こっています。

もし若年者失業率が欧米並みに高ければ、卒業後すぐに就職といった考え方は正しいとは言え無くなりますから、こういった寄り道も許される可能性があります。今はほとんどの人が学校卒業後に就職するため、寄り道をする人自体がマイノリティですが、失業率が高ければ寄り道をすることが当然になる可能性もあります。そうやって寄り道する人が増えれば、多様な人材が生まれる可能性も高くなりますし、企業側も採用方法を見直す可能性も出てくるでしょう。

若年層失業率を高くするというのは人為的にできるものではないと思いますから、実際には失業率を高くする政策というのは不可能だと思います。しかし必ずしも若年層失業率は低い方がいい、とは言い切れないのではないかと思います。低いほうがいいのであれば、社会主義や共産主義こそが最も正しいということになりますが、これは歴史的に否定されてきました。

ある意味私は高失業率のギリシャやスペインというのは羨ましいな、とも思います。確かに経済的には大変かも知れませんが、若者としては就職するという選択肢以外を考えられるチャンスでもあるのではないでしょうか。そう考えると、羨ましい一面もあるなぁと思うのです。

本当に若年者失業率は低ければ低いほどいいのか、私は少し疑問に思っています。