なぜドイツで電気料金が急騰するのか --- 長谷川 良

2013年09月11日 11:44

「東京と平昌の夏冬五輪開催を喜ぶ」というコラムを書いたところ、読者の1人、「黒い森」(井伏鱒二の「黒い雨」ではない)さんから「福島第1原発事故による放射線汚染が東京にも及ぶ危険性がある」という指摘があった。


当方の知る限りでは、福島第1原発の放射線汚染は現時点では問題がないと受け取っている。国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は9日、記者会見の中で「福島第1原発事故の最優先課題は汚染水処理問題だ。日本政府が最近決めた対応を評価する。IAEAとしては、いつでも日本を支援する用意がある」と述べていた。

当方が住むオーストリアのザルツブルク市内で福島第1原発事故直後、プルトニウムが検出されたことがある。「それー、福島第1原発事故の影響か」といった類のメディア報道もあった。広島、長崎両市に原爆が投下されてから今日まで2056回の核実験が実施されたが、核実験が放出した放射性物質は原発事故よりもはるかに多い。極言すれば、われわれの生活環境には過去、放出された放射性物質の残滓が至る所に存在するとみていいわけだ。

参考のために紹介するが、国連科学委員会(UNSCEAR)は冷戦時代の核実験による人体への原子放射線の影響を主要テーマとしてきたが、「1960年代、70年代は核実験による放射能の人体への影響が大きな問題だったが、将来、ラドンの人体への影響が大きなテーマとなる」という報告書を発表している。ラドンは正式には「ラドン222」と呼ばれる気体の放射性物質で自然界に存在する。すなわち、われわれは無数の放射性物質の影響下に生活しているわけだ。

「われわれの環境圏には放射性物質が至る所に存在するから、福島第1原発による放射線汚染は問題ではない」と主張するために上記のことを書いたのではない。放射線汚染問題は冷静に対応する必要性があると言いたかっただけだ。もちろん、そのためには政府、関係省の透明な情報政策が前提となることはいうまでもない。

読者のコメントへの感想が長くなったが、今回はドイツのエネルギー問題について少し紹介する。2年半前の福島第1原発の事故後、ドイツのメルケル政権は操業中の8基の原発を停止し、22年までに全17基の原発廃止を決定、環境にやさしい、再生可能なエネルギー、風力、太陽光の利用促進を進めてきたことはよく知られている。ところが、政府が進める“今世紀最大のプロジェクト”(メルケル首相)の「エネルギー転換」は予想外の困難に出会い、その見直しを強いられている。独週刊誌シュピーゲルの特集からその一部をまとめた。

独週刊誌シュピーゲルによると、風力、太陽熱、生物ガスなど環境にやさしいエネルギー利用はその関連施設の建設・送信網の整備に巨額なコストがかかり、最終的には消費者に大きな負担となって跳ね返ってきている。現在、消費者はキロワット時当たり5・3セントを負担しているが、近い将来、6・2セントから6・5セントにアップすると予想されている。

ドイツ国民が支払う電気代は欧州でも最も高く、平均3人家族で月約90ユーロだ。2000年のほぼ倍だ。電気は贅沢品と見なされ、高騰する電気代を払えない「電気貧困」家庭は年30万戸以上という。

天候に左右される風力、太陽光の施設建設費は今年だけで200億ユーロにも達し、来年は更にコスト上昇が予想されている。政府が期待していた洋上風力発電は海の天候、施設建設技術の難しさなどもあって、建設コストは急上昇。不足分の電力を補うために褐炭、石炭利用が増える結果、環境汚染をもたらすCO2排出量は昨年、前年を上回るなど、脱原発の「エネルギー転換」政策は大きな試練に直面している。

興味深い点は、ドイツで今月22日、ドイツ連邦議会選挙が実施されるが、与野党とも脱原発後の「エネルギー転換」政策を選挙の争点とする考えはないことだ。脱原発を決定したメルケル政権はエネルギー転換が計画通りには進展せず、国民の負担だけが拡大してきたことで、苦慮している。一方、脱原発と環境にやさしいエネルギー政策を政府に要請してきた野党側の予測も甘すぎたことが判明した。高騰する電気料金の責任の一部は野党側にもあることは明らかだ。「緑の党」のユルゲン・トリティン元環境相(1998年~2005年)は「エネルギー転換は国民にアイスクリーム代の負担すら与えない」と“超楽観的”な見通しを主張していたほどだ。与野党とも「エネルギー転換」を選挙争点としたくない理由はあるわけだ。

メルケル政権は再生可能エネルギーを普及するために実施してきた固定価格買い取り制度を廃止し、市場原理に基づく新エネルギー政策の実施を検討するなど、「今世紀最大のプロジェクト」は見直しを強いられている。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月11日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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