クールジャパンで日本を売り込め? --- 中村 伊知哉

2013年09月12日 20:48

6月18日。NHKラジオ、夕方。表記タイトルの番組がありました。

皆さんは、「クール・ジャパン」という言葉を聞いて、どんなことを思い浮かべますか? 政府が成長戦略に位置付ける「クール・ジャパン戦略」について、どう思いますか?

マンガやアニメなど日本のポップカルチャーを海外に輸出していくには、どんな課題があると思いますか?また、政府の支援はどうあるべきだと思いますか? という問いかけ。ぼくが回答役です。以下、オンエアの模様。


Q:政府も「クール・ジャパン」の推進に力を入れ始めた。実際のビジネスの現状は?
コンテンツ産業は13兆円。世界160兆円の1/10で、2位を占めます。マンガ・アニメ・ゲームなどのコンテンツ産業がもともとの中心ですが、実は日本の市場は縮小傾向にあります。
日本のコンテンツの輸出比率は約5%で、アメリカの17%に比べずいぶん小さい。輸出力あるのはアニメ、ゲームですが、海外に出る潜在力はもっとあると思います。
ただ、コンテンツ産業はもともとGDPの3%程度で、国の経済の支柱になるほどではない。コンテンツ産業自体を大きくしていくのではなく、コンテンツ産業を通して、周辺産業を拡大しながら海外に展開していくことが大事です。アニメでPRして、ファッションやクルマや和食を売る、ということ。

Q:「クール・ジャパン戦略」に、政府が力を入れるのはなぜか?
日本の経済停滞の中で、ポップカルチャーが台頭して、世界に進出したのですが、実はこの流れは海外から入ったものです。
「クール・ジャパン」という言葉は、10年前にアメリカのジャーナリスト、ダグラス・マッグレイ氏が書いた論文「Japan’s Gross National Cool(国民総クール)」がきっかけでした。外交における「ソフトパワー」論を提唱したハーバード大学のジョゼフ・ナイ教授も日本はポップカルチャーを活かすべきと提言しました。それで日本での議論が盛り上がった。つまり、日本自らプロデュースしたものではなくて、海外から発見されて入ってきたブームなのです。
政府としては、日本経済や産業構造の変化、少子高齢化で自動車や家電などの基幹産業が苦しい中で、新しい産業として日本独自の文化を世界に展開していくことに力を入れています。
コンテンツ政策は20年ほど前から始まったのですが、今回の安倍政権ではかつてない高まりを見せています。経済政策として、コンテンツ産業をブランド力やイメージを高める触媒として、家電や食品、観光など産業全体を成長させるのが狙いです。

Q:世界での日本文化の発信力の現状をどうみる?
マンガ・アニメ・ゲームは、すっかり日本の顔です。ピカチュウ、ワンピース、ナルトを知らない子はいません。確実に世界に広がっています。日本文化を総合的に紹介するパリのジャパンエキスポは、特にマンガ、アニメが人気で、2000年に3000人の来場者で始まったものが、2012年は4日で20万人規模になりました。
欧米の本は横書きで左とじですが、右手で開く右とじの日本のマンガが浸透しています。西洋文化始まって以来、逆にとじられた本が書店に並んでいる。アジアでもアニメ、マンガ、音楽を通した日本イメージが定着しています。

Q:K-POPや韓流ドラマのヒットなど、韓国は成功例として挙げられるが?
韓国では、1998年の金大中政権からコンテンツ予算を拡大しています。特徴は3点あります。
まず「集中」。映画、音楽などポップカルチャーにジャンルを集中して海外展開しています。
次に「連携」。家電、クルマなどの産業とタイアップして、ソフト+ハードのセットで売り込んでいます。
そして「政府」。本気で後押ししています。
これに対し、日本の海外進出は、集中ではなく多ジャンル総花的。連携ではなく業種タテ割り。そして政府の後押し少なかった。韓国のコンテンツ予算はこの10年で倍増しているんですが、日本は減少しています。
で、今回、政府は韓国を意識したスタンスで、ポップカルチャーに、食やファッションなどを総合的にプロデュースして海外展開を進める政策に本腰を入れるようになった、というわけです。

さて、ここで番組に佐渡島庸平さんが加わりました。佐渡島さんは、講談社の編集者として『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』などの大ヒットマンガを生み出し、去年、作品の海外展開を進めるために、独立してエージェント会社を設立した鬼才。デジタル技術を駆使して海外展開を進めるプロデュースモデルにぼくも注目していたんです。

Q:佐渡島さんをどう見ます?
新しいモデルにチャレンジしてますよね。大企業ではやりにくい挑戦に高速でぶつかる。大きな組織にいて、2つの大きな波をもどかしく見ていたんだと思います。
これまで日本のコンテンツは、国内市場が大きいから、海外展開に本気ではありませんでした。でも、少子化で市場が縮小し、海外を考えざるを得なくなってきた。
同時に、コンテンツはネットが主戦場となっていた。紙のマンガ、テレビのアニメ、テレビのゲーム、CDの音楽、それらがみなネットにシフトし、スマホで消費され、世界中が同時につながっている。
ビジネスモデルが丸ごと変わる。これをピンチとみて殻に籠もる企業もあれば、チャンスと見て打って出る佐渡島さんのような方もいる、ということでしょう。

Q:「クール・ジャパン」の政府の役割をどう考える?
異業種を連携させるコーディネート力、タテ割り省庁の壁を乗り越えて連携することに期待します。
予算の使い方は難しい。ポップカルチャーに税金を投じることには、批判も多い。業界への補助金やハコモノへの税金のつぎ込みは私も反対です。規制緩和、著作権制度の改正や海賊版対策に力を入れたり、人材育成を強化したり、そういう国ならではの政策に力を入れてもらいたい。
私が議長を務めた「ポップカルチャー分科会」の提言は、「みんなで」「つながって」「そだてる」。ポップカルチャーは、基本的に「アンチ権力」。政府の支援は難しい。政府が押しつけようとしても、逃げますから。政府主導でなく、民間の声をどう反映できるか? がポイントです。
肝心なのは、どういうものを支援するか、その「目利き」。政治家や官僚の役割じゃないですね。佐渡島さんがプロデュースしてくれればいいんですけど。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年9月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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