放射能を話題にする際の説得力とは(2) --- 植之原 雄二

2013年09月29日 05:30

放射線障害防止法では、放射性同元素の使用・製造・廃棄業者は従業員の被曝管理責任者として事業所に一人の放射線取扱主任者を選任しなければならない。放射線取扱主任者の需用は使用施設(病院等)が多いので、診療放射線技師(いわゆるレントゲン技師)と混同されることもあるが全く別物である。

放射線取扱主任者は、原子力規制委員会が免状を発行する資格で、第一種から第三種までの3種類ある。第一種が全てを網羅するので、以降、ここでは特に断らないかぎり、放射線取扱主任者とは第一種のことである。


放射線取扱主任者になるには(財)原子力安全技術センターが主催する放射線取扱主任者試験に合格した後、所定の研修を受けて免状が交付される。免状が交付されて放射線取扱主任者となることができる。

一回合格すれば、原則永久に有効である。研修で不合格になるようであれば、試験には合格しないので、放射線取扱主任者となるには、試験が最も高いハードルとなる。

科目は、物理・化学・生物・管理測定技術・法令の5科目で、これらの科目の平均で6割以上、科目の最低得点が5割以上であれば、合格となる。

受験の統計データも公開されている。受験者は毎年3000人から4000人程で、合格率は約20%から30%である。毎年1000人ほどの合格者が出ている。

受験者の70%は30歳以下で、高卒の受験者が8%程度を占める。第二種になると、高卒の受験者が30%程度となる。

合格するには物理・化学・生物・数学の基礎知識が必要であるが、高校レベルの知識で解けるように問題を作ってある。現役高校生の合格実績もある。とはいえ、常識で解答できるようなものではない。過去問と回答も公開されているので、一見するとわかる。

大昔はいざ知らず、今では、合格者は放射能のエキスパートになることができると認められたにすぎず、ゴールではなくスタートにすぎない。したがって、この試験に合格すらしていない人が、放射能の害を他人に啓蒙しようとすることは、滑稽極まりないのは言うまでもない。

専門性が高いので試験そのものは難しい。しかし、出題形式は、○×式のみである。司法試験、弁理士試験、技術士試験等は○×式の一次試験の後、論述、口述試験がある。これらに比べれば、○×式試験のみで済むので敷居はかなり低い。まぐれ合格もありえないことではない。

参考書も『放射線概論―第1種放射線試験受験用テキスト』でこと足りる。これでこと足らない人には、難易度は極めて高くなる。

受験資格制限はないが好奇心での受験など慣例上門前払いされないか、迷うかもしれない。毎年、数千人も受験するから、主催者が個々に受験者を詮索する余裕はない。詮索されるとしたらよほどの大物である。

合格者は官報に原則実名で掲載されるので、合否は誰にでもわかる。放射能とは無縁の人であれば不合格でも気にする必要はない。

放射能の専門家であれば1ヶ月程度の準備期間で1発合格しないものではないが、試験は水物である。自分の苦手分野は、誰でもてこずる。それでも2回、実力はあっても要領が悪くツキもない人でも、3回受験すれば合格するであろう。

また、この業界は狭いので、試験会場で顔なじみと出くわすことはよくある。官報に名前が出なければ、互いに気まずい思いはあるだろう。専門家の方が受験のプレッシャーが大きい。

放射能の素人ならば、過去問にあたって、物理・化学・生物のいずれか1科目でも5割得点できれば十分である。文系出身の人やジャーナリスト等は、この程度にした方が無難である。下手に合格すると、素人とはみなされず鋭く厳しい指摘がくることを覚悟した方がよい。

低線量被曝の害で「有名」になった欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、熱心な支持者も多いようだ。私も一読したが、光電効果が原子番号の4乗に比例すると延々と書いてあることが気になる。5乗のはずだ。諸説あるのだろう。しかし、放射線取扱主任者試験で4乗に○をつけると不正解だと思う。ECRRに入れ込むと、まず合格しない。興味がある人は、放射線取扱主任者試験に合格してから、ECRRにチャレンジすることを勧める。

放射能について薀蓄を傾ける人のレベルを推測するには、この試験は非常に役に立つ。到達度に対してレベル分けし、到達度の確認項目を記す。

レベル       到達度確認項目
1.     放射線取扱主任者になれる。免状
2.    試験に合格した。  合格証
3.    受験したが不合格。  受験の感想を聞く
4.    受験しようと思ったが諦めた。諦めた理由を聞く
5.    こんな資格があることは知っている。確認不要

レベル3は、直接確認はできないが、受験の感想を聞けば、特殊な試験なので雄弁になる。また、不合格は不名誉なので、言い訳はいくらでも出てくる。レベル4は、過去問から歯が立たないことがわかったことが、主な理由となろう。レベル1から4は、過去問くらいはあたっているはずなので、放射能についてある程度判っていると判断できる。

レベル5は、この資格を全く知らないに等しい。マスコミも放射能について独特な意見を述べる人には、本人とスタッフについて、この程度の確認はしたほうがよい。レベル5であれば、面白い売れる記事ネタにもなりかねない。

原発や放射能以外にも、2011年は、再生可能エネルギーや発送電分離なども賑やかな話題になった。聞いていると系統制御とか発電機の安定性などわかっているのか首を傾げたくなる幼稚なものも多かった。スタッフに電気技術者試験センターが主催する電気主任技術者試験の合格か、これに挑戦した経験がある人がいないと全く信用できない話である。

電気主任技術者試験は難関(数%の合格率)にも関わらず、年間5万人ほどの受験者がいる。それでも、こんなものである。放射線取扱主任者試験の受験者が年間4千人ほどでは話にならい。

これを期に、こんなものもあると200万人くらい認識してくれれば、アゴラで紹介されている記事も冷静かつ現実的な判断材料にできる人が増えるのではないか。

マスコミ等は、これらの資格試験について失敗談等を紹介すれば、結構売れると思う。単に売れるだけではなく、国民の現実的な知的好奇心を高め、これらの資格試験への挑戦者も増えれば、成長戦略の大きな材料となるはずである。

植之原 雄二

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑