どうなる、再生できない「ヘリウム」の需給 --- 河原 心平

2013年09月29日 06:00

夢の国東京ディズニーランドでは2012年11月から風船の販売が中止になっています。直接の原因は米国のヘリウム製造プラントでトラブルが発生し、風船を浮かせるためのヘリウムが調達困難になったためです。ディズニーランドの風船に限って言えば近々復活すると思われますが、長期的に見ると決して楽観視できず再び中止に追い込まれる可能性が濃厚です。本稿では、今後数十年で世界のヘリウム需給がどうなるかを予測してみることにします。


様々な用途に用いられるヘリウム

ヘリウムは吸うと声が変わるガスとして、または風船を浮かせるガスとしてお馴染みの気体物質です。化学的には希ガスと呼ばれるグループに分類されていて他の物質と反応しないことが大きな特徴で、しかもその中で最も沸点や粘度が低いという特異な性質を持ちます。それらの特徴を生かしてMRIや半導体、光ファイバー製造の冷却材として用いられており、この用途を他のガスで代替することはほぼ不可能です。

北米・中東への偏在

資源としてのヘリウムは北米や中東のごく限られたガス田から天然ガスに混ざって産出し、話題のシェールガスにはほとんど含まれていません。空気中には5ppm存在しますが、現在のところそれを経済的に取り出して利用する技術は確立されておらず、したがって再生不能な枯渇性資源であると言えます。

米国は1960年代の冷戦期に軍事用の気球を浮かせるための戦略物資として大量に備蓄し、冷戦が終わった1990年代に備蓄の放出を開始しました。そのため2000年には米国が世界で使われるうちの80%を供給するようになり、やや減産した2013年現在でも76%、実に4分の3の供給を担っています。そして残りはほとんどが地政学的リスクの高い中東です。

逼迫する需給

幸いにも我が国においては岩谷産業株式会社がカタールからの輸入を開始したため当面は産業用や医療用のヘリウムが不足する心配はなくなりました。ディズニーランドの風船も近いうちに再開されると考えられます。とはいえ、再生不能な資源である以上は今後再び不足することは避けられません。

世界のヘリウム供給力は年間1億7000万m3、需要もそれに近いほどあり、需給は非常にタイトな状況です。そのような事情があるためアメリカの施設がひとつ故障しただけで深刻なヘリウム不足に陥ったと言えます。その上世界のヘリウム需要は新興国を中心に右肩上がりで、今後もこの傾向が続くと考えられます。

やがてピークがやってくる

アゴラでは辻元さんが盛んにピークオイルに関する議論をされていますが、ヘリウムが在来型天然ガスの随伴物質である以上はどこかでピークがやってくる、あるいはやってきたはずです。近年のシェールガスブームを見る限り、どうも在来型天然ガスは既にピークを迎えているような気がしてなりません。ところが前述のとおり生産の大半を担う米国に大量の備蓄があり、備蓄放出がピークを隠蔽した可能性は否定できません。そうだとすれば備蓄が底をつくであろう2015年頃に見かけ上の供給ピークがやってくることになります。この予測は可採年数R/Pが残り25年と言われていることを考えると妥当なように思えます。

成長の限界との関係

1972年、ローマ・クラブは「成長の限界」というレポートを発表しました。これは環境の劣化や資源の減耗により経済が破綻し、やがて文明の衰退が始まるというものです。ヘリウムも例外ではなく、減耗していずれ枯渇することが運命づけられています。しかしヘリウムは生体の必須元素ではないため、なくなっても人類が滅ぶことはありません。せいぜいMRIがなくなって寿命が少し縮んだり、現代文明の象徴であるインターネットやリニア新幹線がダメになったりする程度です。むしろ成長の限界による経済破綻と人口減少がヘリウム資源の寿命を延ばすことも予想されます。

原子力への期待

2040年以降には原子力技術がヘリウムの新たな供給源となる可能性があります。ヘリウムの原子核はウランやトリウムが鉛に崩壊する過程で発生するアルファ粒子で、天然ガスに含まれるヘリウムも地球内部での放射壊変によって生成したものです。アルファ粒子はとても安定しているため核融合や核分裂、核破砕など様々な核反応で普遍的に生成します。そして特異な性質のため分離精製が容易で、放射能を持つ同位体が存在しないためそのまま使えます。問題は反応で出入りするエネルギーに対して得られるヘリウムの量が極度に少ないことです。核融合が実用化されるならまだしも、リチウムと中性子の反応や吸熱反応である核破砕で生成できる量は限られています。

他には大気から取り出す方法がありますが、仮に技術開発が進んだとしても多大なエネルギーが必要です。それを自然エネルギーで手当するのはコスト面でかなり厳しいと考えられるため、やはり中長期的視点において原子力とヘリウムは切っても切れなさそうです。

河原心平
豊充風船商店 代表

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