ブリュッセルの「不安」 --- 長谷川 良

アゴラ

欧州連合(EU)の加盟国28カ国で2014年5月、欧州議会選挙が実施されるが、アンチEUの右派政党の躍進が予想されている。その直接の契機は、フランスで最近実施された政党支持率調査の結果だ。それによると、マリーヌ・ル・ペン党首が率いる右派・国民戦線(FN)が支持率24%を獲得、同国最大野党の中道右派・国民運動連合(22%)、与党・社会党(19%)を破り、トップに躍り出たことが明らかになったのだ。オーストリア日刊紙プレッセは「右派政党がトップ、というニュースはフランス政界を震撼させている」と報じている。


国民戦線の躍進の背景については、オランド仏社会党政権の経済政策の失政、移民問題の深刻化などがFNに有利に働いたと受け取られているが、同党のアンチEU政策が有権者の支持を集めていることは間違いないだろう。FNは2009年の欧州議会選では6・3%の得票率だったから、世論調査結果といえ、24%の支持は大躍進だ。南仏バール県ブリニョル市でも13日、県議会選の決戦選挙が行われ、FN候補者が保守政党の国民運動連合(UMP)の候補者を破って当選したばかりだ。ブリュッセルがFNの躍進に震え上がるのも不思議ではない。

欧州の財政危機が勃発して以来、巨額の財政支援を求められる北部のEU諸国の国民の間には、「どうして俺たちの税金が怠慢な南欧を援助しなければならないか」といった怒りが強まる一方、節約と緊縮を強いられる南欧の人々の間にはフラストレーションが高まっている。すなわち、南北の両欧州でEUの財政危機への対応で批判の声が高まっているわけだ。そのような中で、右派政党がアンチEU政策を主張し、大衆迎合の政治キャンペーンを展開することで有権者の支持を得ているわけだ。

右派政党の躍進はフランスだけではない。当方が居住するオーストリアでもハンス=クリスティアン・シュトラーヒェ党首が率いる自由党が9月29日の国民議会選挙で20%を超える得票率を挙げて躍進したばかりだ。同党の基本政策は「オーストリア・ファースト」だ。移住者に対しては排斥的な立場をとる一方、ブリュッセル主導のEUに対して批判的だ。EU予算への拠出金の縮小、ユーロ脱退も視野に入れ、財政危機下のギリシャに対してはユーロ脱退を要求している。

自由党は前回の欧州議会選では12・7%の得票率だったが、来年の選挙では20%台も夢ではないと予想されている。

オランダでは右派政党自由党(PVV)が国民のEU懐疑派の増加を受けて欧州議会選では躍進すると見られている。同党(ヘルト・ウィルダース党首)はイスラム移民の排斥、ユーロから脱退を要求している。前回の欧州議会選では得票率17%を獲得して第2党だった。

いずれにしても、財政危機を契機に欧州が南北に分裂し、両欧州の国民がブリュッセルの危機管理に不満を持っている現在、アンチEU路線が有権者の支持を得るのは当然として看過することはできない。

欧州を取り巻く状況を見てみよう。最近では、北アフリカ・中東諸国からイタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖を目指して大量の難民が殺到している。もはや、イタリアやマルタの一国レベルでは難民問題を解決できない状況だ。ブリュッセルはEUレベルで問題の解決に乗り出さなければならない。

移住者問題だけではない。オバマ米政権が国内問題でもたついている時だけに、EUの指導力が一層願われている。その欧州が分裂していたら、解決できる問題も難しくなる。アンチEUを掲げる右派政党の躍進は、ブリュッセルのEU指導者にイエロー・カードを突きつけているのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。